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こちらドワーフ製作所  作者: 鳳凰院帝
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1話 営業は冒険だ

飛び込みの営業はロールプレイングゲームのようなものだ。


会社から支給される武器(名刺とパンフレット)を手に広大なフィールド(担当エリア)へ冒険(営業)に出る。目的はもちろんお宝(売上)だ。たまにモンスター(客)に出くわしたり、トラップ(客)があったり。


しかも現実はゲームのようにできていない。初期ステータスは変更不可だし、割り振りできるスキルポイントは個人差があるし、モンスターに負けたら死んじゃう事もあるし、トラップに引っかかると毒とか呪いに蝕まれて死んじゃう事もあるし、勇者は使い捨てだし。

リセットとはある。けど、ノルマ的な意味だったり、社会的だったりするのは別の話。


そして今日も一人の量産型勇者(使い捨て)が今日もダンジョン(訪問先)の扉を開ける。

その目に希望の光はない。口から出てくるのは先輩から教えてもらった呪文(定型文)。


「こんにちわ!突然の訪問失礼します!新しくこのエリアの担当になり回らせていただいております林商事の坂本です!新商品やキャンペーン品等、ご担当者様とお話させていただきたいのですが。お時間少々いただけませんか!」


展開は大体決まっている。最後まで喋らせてもらえるのはいい方で大体が途中で断られる。

帰ってくれと言われるのはまだいいほう。無視をされたり、警察を呼ばれたり。返事の代わりに工具が飛んでくることも。


「うぅ。今日も成果ゼロか。会社帰りたくないけど帰らなきゃ・・・」


うなだれながら上裏路地を歩きながらスマホのマップを頼りに最寄り駅に向かう。


「ん?ここは・・・工場?」


通り過ぎざまに切削油特融のにおいが鼻先をかすめる。顔を上げると看板らしい看板はなく、軒下のドラム缶に鉄くずが入っている。下町によくあるような町工場がそこにはあった。


「えーと・・・ドワーフ製作所?珍しい名前だな」


ポストに書かれた社名はかろうじて読み取れる。


「でも製作所って事は・・・ダメ元だ!」


思い切ってドアを開き、一歩前へ。深々とお辞儀をしながら挨拶。


「忙しい時間にすいません!失礼します!私、林商事の・・・」

「えっ」


その声に顔を上げるとそこには小さい女の子が工具を運んでいた。


「坂本と、、、坂本です。こんにちわ。お手伝いかな。お父さんはいるかな?」

「いない」

「・・・うーん。どこかに出ているのかな」

「帰って」

「え?」

「警察呼ぶよ」


青いツナギの胸ポケットからスマホを取り出す女の子。


「いやいやいやいや待って!怪しくないから!僕は工具メーカーの営業なんだ!ほら、名刺!訪問のお仕事なんだよ。お父さんいなくても名刺!名刺もらえたら帰るから!」


名刺を見た女の子の動きが止まった。


「たつ、うま?」

「え?いや、ちょっと違うかな。たつ、ま。だよ。坂本龍馬」

「たつま・・・」


名刺を片手にうつむき加減の顔は作業帽が邪魔でうかがい知れない。


「・・・名刺、持ってくる」


奥に引っ込み、間もなく持ってこられた名刺には


有限会社ドワーフ製作所

取締役 久禮 龍吉


とあった。古い質感の厚めの名刺。電話番号の下にはラベルライターで貼られたメールアドレスが。


「電話は今壊れてるから必要ならメールで連絡して。必要なら電話するからあなたの携帯番号は?」

「え?あぁ、名刺の下に書いてあるから」

「そう。じゃぁもう要件は済んだわね」

「あ、そうだね」


急に口調が変わって気圧されたが、再びスマホを取り出されたことに気が付いた。


「まままって、帰るから!また今度改めてアポ取ってくるから!」


逃げるように工場を後にした。

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