表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺は、人を見る目だけ無かった(仮)  作者: 餡巻屋 FREE
旅立ち編
3/8

冒険者への憧れ(2)

サブタイトル等は変更するかもしれません

領都にほど近いとはいえ、魔物も出るしそれなりに危険な森に入り浸るようになった最初の原因は、俺が12歳の時に長男が貴族学校を卒業して帰領したことによる食事事情の激変だ。

そういえばもうお解りかもしれないが、兄2人を学校に行かせるためにカツカツだったとはいえ、長男・次男は学校、長女は行儀見習いへ行っており家で親と俺と妹が喰う分くらいの食料は確保できていたし、学校に居る間は寮での食事も学校の費用に含まれているのでそれ以上の出費は無かった。

ならば学校を卒業したら出銭が減るのでは?と思われるかもしれないが、費用は入学時の一括払い。

なので、傭兵時代から溜めていた金や褒章として下賜された金は次男が入学した段階でそこを尽きてしまっているのだ。

貯金は無く収入が増えるわけでも無いのに増えた人数。

長兄は学校をかなり優秀な成績で卒業してきたようだが、それでいきなり税収が増えるわけでも無い。

長兄はこれからレギオン家をしょって立つ身だし他の兄弟と格差をつける必要があるしそれは理解できる。

レギオン家の血筋の女性として他家に嫁ぐべき妹がガリガリに痩せて不健康では縁談も決まらないと言うのも理解できる。

父や母の量もそれなりに減っていたのかもしれない。

だが、兄の帰領による食事量のしわ寄せが要らない子である俺にダイレクトに来たわけだ。


それから俺はまず、腹が減るので戦闘訓練で手を抜くようになった。

そのころには古参の強兵の半分ほどが年齢を理由に開拓村へ移っていることもあり、模擬戦を行えば負けなしだったことも手伝って必要最低限の力で訓練をするようになった。

それでも体を動かせば腹が減るので、古参の兵たちに聞いた食べられる野草を摘んでは上をしのいだ。

だが、成長期の体がひたすらに欲するのは質の良いタンパク質、つまり肉。

今までの戦闘訓練で弓も練習したため自信があったが、弓を使えば矢を消耗する。

古参兵の一人に教えてもらった革のヒモで挟んだ石を投げる方法で動物を狩りることが出来れば出費ナシで肉が食える。

と言う飢えからくる短絡的な思考により空いた時間で森への平原に出て獲物を探す。

だが、教えを受けたとはいえ素人に毛の生えたような腕前で野生の動物にあたるはずもなく、治療や訓練の後に平原に出て、狙った獲物に石を投擲するも当たらずに逃げられ、帰る道すがら食べられる野草を摘んで上を凌ぐという生活のサイクルが始まった。

毎日の経験から、あまりにも遠いと石を狙った獲物に当てるのはかなり難しいとわかり、狙いがつけられる距離を学んだ。

獲物に先に気が付かれると石を投げる前に逃げられてしまうので、こちらが先に見つけるために常に周囲を警戒して獲物を探すようになった。

先に見つけたとしても石の届く範囲にただ近づくと動物にあっさり存在を気が付かれるため、出来るだけ足音を立てないように動いたり、古参兵の一人が教えてくれた気配の消し方を聞きかじり程度とはいえ真似てもみはじめてしばらく経つとある程度の距離まで近づけるようになった。

それまで漠然と石を投げていたが、獲物に当たっても当たり処によってはそのまま逃げてしまうことを知り、より精密に頭を狙うようになった。

そしてひと月ほど経った頃。

低木の無い開けた場所で餌をついばんでいる野鳥の頭に投擲した石が直撃し、初めて獲物を得ることが出来た。

喜び勇んで家に持ち帰り、家の炊事場を取り仕切っている古参兵に料理してくれるよう頼んだら、それから血抜きをして羽をむしり、内臓を除去して丁寧に料理した上ですべて家族に食われ、自分の口には一欠けらも入らなかった。

さすがに腹を立てて抗議すると兄は俺をバカにしたように鼻で笑って最後の一切れを口に入れた後、もっと取ってこいと命令した。

俺は二度と家に獲物を持ち込まないと決心した。


次の獲物を手に入れることが出来たのはそれから6日ほど経った日、仕留めた獲物は手のひら二つ分くらいの大きさの動物だった。

名前は知らないが草原の草を食んでいたところを狙い撃ちにして仕留めた。

さっそく食べようと思ったが獲物のさばき方を詳しく知らなかった。

炊事場を取り仕切っている古参兵もわざわざ教えてはくれなかったし、料理もしたことが無かったのでどうやって調理すればいいのかわからないことに気が付いた。

とはいえ獲物を持って帰るとまた家族に食われてしまうので、持っていたナイフを使い炊事場で見ていた鳥のさばき方を見様見真似でやってみた。

調理の方法も解らないが生肉を食う気にはなれなかったため、その場で火を起こし、かなり強めの焚火を作ってそのまま火の中にに放り込んで焼いて食った。

塩味も何もないし、火力が強すぎたのかところどころ炭の様になっていて、口に入れた肉は正直まずかった。

それでも最近全く肉を食べておらず肉に対する飢えが勝ち、骨を残してすべて食べきった。

帰宅途中から腹の調子が悪くなり吐くわ下すは大変な騒ぎになって3日ほど寝込んだ。

寝こんでいる枕元で父と母には俺をこっぴどくしかり、兄には独り占めしようとした報いだとか寝込んでる間は飯の量が増えたから一生寝こんでろとか言ってバカにされた。


復調してからまずは炊事場の古参兵に何が悪かったのか聞きに行った。

腹を壊した獲物の形状等を説明したところ、ネピッドと言う草食動物で畑を荒らすこともあるので数を減らした方が良いこと。

ちゃんと調理すればそれなりに美味いこと。

腹を下した理由は、おそらく捌いた際に腸を傷つけて肉に内臓の中の糞がついてしまったことを教えてくれた。

捌き方を教えてくれと頼んだら、ただでは教えてやらんと言われ、俺が覚えるまでの間は肉を三分の一差し出すことで肉のさばき方から野外での調理方法まで手ほどきしてくれる約束をとりつけた。

俺に教えてくれている間、火を通せば臭いが発生してしまい結局は俺の家族にばれてしまうため、家族にも肉を食わせる必要があると説得された。

その代り、調理の勉強の際に焼いた肉は家族に出す分を残してその場で少し食えるよう配慮してくれると言うし、業腹ではあるがそもそも自分で調理できなければ前回と同じ目に合うのが解りきっているので、その古参兵の提案に乗ることにした。

古参兵の名前はジャークスと言い、それからはお互いに肉を食うための秘密を共有する者として年の差は有るものの親友と言って良い仲になった。


それからもナインは少しずつ狩りの腕を上げていき、ひと月たつ頃には3日に一回は獲物を得られるようになり、その獲物を練習材料にするために獲物のさばき方と調理の腕も次第に上がっていった。

ジャークスが口を酸っぱくして言うのは、捌くのは後でもいいから血抜きだけはその場で行わないと肉に臭みが出ること、ただし、平原で行う時は肉食獣が血の臭いに誘われて寄ってこないか警戒しながら作業することの2点だった。

ジャークスにそういった知識をいつ得たのか聞くと、傭兵団時代は後方支援部隊の所属で戦闘はからっきしで、ジャークスの言うところの先代、つまり俺の爺さんが団長だったころから調理番をしていた。

戦闘を生業にする本隊の団員達に出来るだけ美味いものを腹いっぱい食わせたくて食べられたりスパイスになったりする野草の事等、野外で調理をするための知識を溜めこんでいたが、雇い主が領地を得て貴族になったせいでそれらを披露する場を失った。

雇い主の息子とはいて、それらを披露できる相手が出来てかなりうれしかったと目をキラキラさせながら語ってくれた。


それから半年、ジャークスには色んなことを教わった。

肉を包むと傷みが遅くなる大きな葉っぱがあり、それで包めば森の近くまで狩りに徒歩で行っても帰る間に痛む心配をしなくても良いこと。

剥いだ獣の革は仕立て屋で買い取ってくれるが、鞣してから持ち込めば買い取り額が上がること。

革は冒険者ギルドでも買い取ってくれるが登録してないとクエスト報酬がもらえず、結果的に買い取り額が安くなるので15才まで待った方がいいこと。

それ以外にもいろんな雑多なことを教わり、それらの知識によって自分の食事事情を改善、むしろ家族より栄養状態が良くなりだんだんと家に居つく必要が無くなってきた。

家に居つかないため家族との折り合いはあまり良くなかったし、長兄等は獲物を持ち帰らずに外で食いつくして帰ってきているとわかっていたので、相当にあたりが強かったものの、それでも一日おきの教会での治療を行うために毎日家には帰ってきていたし、危険と解っている森の中に入っていくことは無かった。


その状況が一変したのはそれから1年半後、きっかけとしてはやはり兄の帰領がきっかけだった。

次兄が貴族学校を卒業して戻ってきたのだ。

そのころには猟の腕もかなり上がっており、日によって獲物が2匹取れることも稀ではなくなり、そういったジャークスと俺のふたりで食いきれない獲物を家族に食わせるのは馬鹿らしかったため、すべて肉屋に卸すようになってた。

鞣した革も最初の頃は買いたたかれていたが、最近ではそれなりの金額で買い取ってもらえるようになったし、鳥が取れた時は矢羽の材料を武器屋に持ち込むなどしていたため、それなりに質の良い小麦で焼かれたパンを毎日食い、肉を焼くときに塗すための塩を少量とはいえ自分で買える程度の稼ぎはあった。

野菜も肉ほどでは無いが高いのでそれを買うほどの稼ぎではなかったが、それらはいい季節であれば食べられる野草で賄い、狩りのための装備を少しずつ整えながら冬に備えて貯金をすることさえできていた。

それらの自分の稼ぎによって家では全く食事をとらなくていい状態になっていたのが裏目に出るとはこのときは思いもよらなかった。


次兄が帰領してから1か月ほど経ったある日。

俺はいつも通り猟を終えた後に取った獲物をその場で調理して食事をし、後で鞣すために剥いだ革をもって自分の部屋に戻った。

帰宅はいつも通りだったが、今日は俺にとって特別な日だった。

去年の冬の狩りは寒さが非常に厳しかったことを教訓に、今年の冬の狩りのための防寒ジャケットが欲しいと思っていた。

だが、俺が片手間の狩りで手に入れられる現金収入はたかが知れ居ている。

そこでいつも鞣した革を持ち込んでいる仕立て屋に相談したところ、材料を持ち込めば加工賃プラスαで仕立ててくれると言うのだ。

材料はネピッドの毛皮を最大でも30匹分用意すること。

俺も成長して体が大きくなってきているので、大き目に作っておき、それでも小さくなったらサイズアップできるように作ってくれる、いたせりつくせりの提案だった。

これも、日々鞣した革を収め続けて人間関係を構築したおかげのカクヤスプライスだった。

本当はすべて冬毛に生え変わってからの毛皮の方が保温性は高いのだが、夏毛でもそれなりの性能は発揮するので、夏前からコツコツと毛皮を作り溜め、虫がわかないように虫よけの野草をこまめに取り替え3日前にようやく材料そろったところだった。

後は鞣し終わった革をふくやにもっていけば資金もそろうので、今日は材料と金を店に持ち込む約束をしていた、と言う意味で苦節半年の努力が実を結ぶ俺にとって特別な日だった。

気もそぞろに鞣す前の革をした処理のために野草を煮込んだ液に浸すと、収納代わりに使ってるクローゼットを開けた。


何もなかった。


頭が真っ白になりながらも、こんなことをするのは長兄しか考えられず、父もいる執務室に怒鳴り込んだ。

怒鳴り込んできた俺を見てニヤニヤしている長兄を見て、こいつが犯人だと詰め寄ろうとした途端、後ろから後頭部を殴られた衝撃で一瞬意識が飛んだ。

倒れきる前にどうにか持ち直すも、フラフラした頭に手をやりながら殴られた方向を見た。

長兄そっくりのニヤニヤした笑いでこちらを見下ろす次兄がいた。

俺の毛皮をどうしたと尋ねると、毛皮はすべて売り払ったという回答。

売ったのと俺の部屋から持って行った金はと問えば、何でも次兄の帰領祝いで街の酒場で飲み干してしまったと。

返せと怒鳴れば、我が家の家計にそんな無駄な金はない、そもそも狩った獲物を持って帰って渡してればこんなことにならなかったとのたまう。

その場に居た父に訴えてみても、金ならまた溜めれば良い、それよりそんな下らないことで兄弟で争うなと言うセリフに俺は絶望した。

古参兵からお絶大な支持があり、彼らの口々からカリスマと面倒見の良さで傭兵団の人心を掌握して率いてきたと聞かされて育ち、自分の父は尊敬できる人間なのだとずっと思ってきたのだ。

そんな自分が尊敬する人間から吐きだされたセリフとは、とても信じたくはなかった。

せめて一矢報いようと長兄に殴り掛かったものの、歯牙にもかけられずにいなされ、逆に殴り飛ばされた挙句、次兄によって取り押さえられ身動きもとれなくなってしまった。

後で知ったが、長兄・次兄とも貴族学校へ行く前は元傭兵団最強の男である父に教えを受け、貴族学校でも王国流騎士剣を学んでいたらしい。

古参兵以外の兵たちも俺より年上しか居ないにもかかわらず、訓練の際の模擬戦では向かうところ敵なしだったため自分もそれなりに強いつもりでいた。

だが兄たちは基礎的な部分と言うか、こと戦闘における強さの格が全く違っていたと言う事実を突き付けられたのだ。

そして、こと兄二人が関わった場合、父は決して俺の味方ではないという事実も。

前年の経験から冬場の狩りで防寒着が無いと、寒さにより長時間の行動ができなくなってくるが、雪が降り始めてしまえば動いている獲物自体が減ってしまうため獲物を求めて長時間の行動を余儀なくされる。

しかも、秋を過ぎれば急激に日が短くなり、日が落ちてしまえば狩り自体ができなくなってしまう。

幸いジャークスに雪中でも少なくはあるが野草の探し方は教わっているし、実際に前年主にそれで飢えを凌いでいたので最悪の事態にはならないとは思うが、その野草を掘るのにすら日の光が必要で、これから仕立てる防寒着が貴重な日中の行動時間を激増してくれるはずだったのだ。

それらの事情を踏まえて、毛皮と金の返却か大体となる素材と資金の提供をするように父に訴えた。

父は急に長女について、雪が降り始める前に嫁入りの準備のために帰領すると語りだした。

そのうえで、現物でも金でも構わないから狩りで得た獲物の8割を家に入れること、それを条件に兄たちが貴族学校に行く前に使用していたサイズが小さいく着ることができなくなったお古のコートを何着かを防寒着として仕立て直して渡すという話だった。

俺から素材や金を盗んだ挙句、条件を付けて獲物を搾取するなどおかしい、防寒着として仕立てて俺にくれればいいじゃないかと言い募った。

途端に俺を押さえつけていた次兄が腕をひねりあげ、ニヤニヤしながら高級な布地で思い出の品をタダでくれてやるわけがない。獲物との引き換えでもらえるだけありがたいと思えとのたまった。

その後、父と長兄が傍観する中、俺が父の提案に承知するまで腕をひねられ続け、痛みに耐えかねて承知すると、そのまま執務室をたたき出された。


腕をひねられすぎて肩が外れてしまい、その弾みで筋が切れたのか、すでに母よりはるかに効果が高くなっている自らの治癒魔法で治療したにも関わらず、狩りに出られる程度に回復するのに二日間ほどかかってしまった。

しかも、俺が狩りで飯を調達するようになってから家での食事に俺の分の配分がなくなっており、その二日間はジャークスがこっそり差し入れてくれる残飯を薄い塩で煮込んだスープで飢えを凌ぐ羽目になった。

狩りに出られるようになった三日後、次兄が防寒着に仕立てられた兄の古着を持って俺の自室に来て、条件の念押しとともに持ってきた防寒着を足元にたたきつけ、踏みにじってからニヤニヤと薄ら笑いを浮かべ、俺に向かって拾えと命じ、拾おうとした俺を蹴り飛ばして大笑いしながら部屋を後にした。

とっさに受け身をとって痛手は被らなかったものの、あまりの悔しさに涙が出た。

俺は声とともにその気持ちを押し殺しながら防寒具を拾い上げた。

素材は予定していた毛皮よりはるかに高級なもので、形状は仕立て屋と何度も話をして決めた形状に仕上がっていた。

それは、俺の狩りのスタイルに都合がいいようにポケットの位置や大きさなどを何度も打合せたもので、気の良い仕立て屋が「貴族の狩りにも流用できる部分があるからデザイン料はサービスですよ」と言ってくれたものに違いなかった。


俺は色々なものを押し殺し、冬の狩りに必要な装備を手に入れた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ