プロローグ
俺はついに冒険者ギルドの格を金格にしてしまった。
・・・ソロで。
正直、腕っぷしだけで昇格できるのは銀格まで、金格からは指名依頼も増えるし、実績を積み重ねて名声が上がれば大商人、場合によっては貴族を相手にしなければならなくなるため、最低限の礼儀作法も求められる。
俺はそれ以上の格には到達できないだろう。
正直あれはチョットとびぬけすぎている。
ひとつ上の格の白金格ですら俺なんか歯牙にもかけないほど強い。
戦闘職の白金格一人いれば、並の兵士では1000人規模の軍隊を相手にしても歯牙にもかけないだろうし、魔法職であれば魔法ひとつで全員蒸発するレベルだ。
その上のミスリル格なんて、国に一人所属していたら外交カードになるレベルだし、最上級の格は帝国にオリハルコン格が一人いて、アダマン格は空位だけど、帝国の強気発言なんてやばいレベルだ。
つまり、金格は一般人から見たらものすごく強いし、信用もあるけど所詮一般人が到達できる範囲ってこと。
とはいえ金格まで上がるにしても通常は4~6人程度のパーティーを組んで地道にクエストをこなし、地道に色んな町や村で人のつながりを作って信用を上げ、その間にも自身の研鑽に励み、パーティーメンバーとの連携を磨き続けてようやく到達する格で、決して一人で到達すべき場所ではない。
俺も別に狙って一人で金格になったわけではないし、むしろ今でもパーティーを組んで仕事をしたい。
だが、俺の二つ名を聞いてパーティーを組んでくれるような物好きは既にいない。
ソロで仕事をしてればそれなりに目立つので、銀格の早い頃から二つ名はついていた。
冒険者としては二つ名がついてようやくベテランとして信用がついてきた証として喜ぶべきなのだが、如何せんついた二つ名の内の一つが俺の状況を端的に表してたため、その二つ名がついて以来、臨時のパーティー以外だれも組んでくれなくなったのだ。
公的に一番通りの良い二つ名で俺自身が使っているのは “百手”。
これは俺自身に冒険者として出来ることが多い、と言うか一人で全部やらないといけないせいで自然と手数が増えたせいで付いた二つ名だ。
当代、名実ともに世界一の冒険者である帝国のオリハルコン格の二つ名「“一人軍隊”のエバンス」と並んで使われるのが「“万手”のエバンス」で、それにあやかっている感じがして、数字は百分の一だが非常に気に入っている。
だが、エバンスの例を見ても解るように二つ名はいわゆる通称のため、一つとは限らない。
むしろいくつもついて、より名声が上がっていくにしたがって自身が普段使っている二つ名以外は淘汰されていくものだが、それでも残るのが本人を端的に表した悪い二つ名、例えばエバンスであれば帝国以外の国であれば “自国殺し”の方がむしろ通りがいい。
冒険者はあまり戦争に加担しないものだが、当時のエバンスはコネと言うしがらみにより拠点を置いていた国の戦争に参加。
ところが、エバンスの参加が気に食わなかった貴族が、エバンスにあれこれと嫌がらせをした挙句、エバンスの妻を人質に取って前線に連れて着て、戦争相手から撃ち込まれた流れ矢でうっかり死なせてしまった。
切れたエバンスが自軍に向かって自身の使える最大の魔法を放り込み、戦争相手の帝国に亡命。
魔法を放り込まれた軍はその一撃で消滅。
一気に軍事力が激減したその国は体制を立て直す暇もなく攻め滅ぼされてしまった。
以来、帝国以外の国では「“自国殺し”のエバンス」と呼ばれるようになった。
そして、俺の二つ名の話に戻るのだが、俺は二つ名が淘汰されるほど活躍してるわけではないのでまだいくつもの呼ばれ方をしている。
面と向かっては“便利屋”とか“何でも屋”なんて当たり障りのない呼ばれ方、ちょっと仲の良いヤツなら“百手”を揶揄って “器用貧乏”。
このあたりはなんてことない二つ名で、将来的には淘汰されていくものだと思ってる。
だが、ある時から一つの二つ名が俺の冒険者としての人生を阻むようになった。
それが“クズ掴み”。
確かに今までパーティーを組んだ奴らは全部パーティーを解散しているから一人なわけだし、解散した奴らとの折り合いは最悪と言っていい。
言い訳をするなら俺の人を見る目が無かったこともあるが、原因は軒並み相手に会ったと言っていい。
組む相手、組む相手、すべてがクズと断言してもいいレベルでダメな人間だったし、それを知ってるやつらもたくさんいる。と言うかだいたいみんな知ってる。
だが、それを知ってるからこそ「俺とパーティーを組む奴=クズ」という認識が俺を知ってる冒険者の中に出来上がっており、自分がクズ扱いされたくない普通の冒険者は俺とは絶対にパーティーを組まない。
臨時でチームを組んだパーティーリーダーに入れてもらえないか相談しても、正式加入は縁起が悪いと断られる始末。
そんな状況でも俺と組もうとすり寄って来るのは、冒険者同士の緩い暗黙の了解すら守れないチンピラ紛い、俺の稼ぎをあてこんだ子悪党、俺以上にひどい二つ名持ち、超上から目線で冒険者を始める息子とパーティー組めと命令してくるお貴族様とそのボンボンetc、言っちゃ悪いが“クズ予備軍”しか寄ってこず、そんな中でもマシそうなやつと組んで仕事をしてみるもやっぱりお決まりの解散。
ギルドに普通の冒険者の斡旋を頼んだりもしてみたが結果は変わらず。
そして現在、ソロと臨時パーティーをメインに、多数パーティーによるレイドクエストも地道にこなしていたらうっかりお一人様で金格に至ってしまったというわけだ。
今でも全く持って不本意なことだが、この俺の人を見る目の無さと言うか、クズを引き当てる確率100%と言う運の無さが自身を金格に導いたと言っても過言ではない。
そんな俺、百手のナインによる過去と未来の物語。
ナインの二つ名でよりしっくり来ると思うものがあれば感想にて10話目投稿まで受け付けます。
エバンスさんは将来的には出てくる可能性がゼロではない。