ーSo-called of juvenile a sickー
鳥が跳ぶ。
犬も跳ぶ。
ライトもふらいあうぇいなら ーー『俺も跳ぶ! 』
はるか天空に夢を馳せるは人の性。
産まれたからにゃあ 跳ばねばホトトギス!
ーー鳥もヘリもカラスも飛行機も空を跳ぶ時代、グラウンドで立ち尽くす『少年』ーー
跳べなくて何が悪い?跳べない今日より跳べるかもしれない明日はきっと今日より素晴らしい明日だ。
『失敗は成功の母って誰かが言ってたけな?……ヘヘッ』
ーー己を信じ、ひた進め!何かを変えろ!ーー
ジュブナイルソウルがウルトラソウル。
誰しもにあった幼き日の"初めて"へ向かうスペクタクルフィクション。
ーー空。そこには圧倒的な『空』次いで、吹き荒ぶは『風』
「ハァハァ……」
現在、二月。
雪の降りも 南国の地、九州へと及ぶ程、寒空。
「ハァ……クッ」
ここにあるものは白い息、強く冷える風 、そして打ち震える『俺』。
ただそれだけだ。
寒さに震えるうちは良い。ここ、校庭の喧騒にいずれ絆され自ずと笑顔へとその様を変えるだろうさ。
じゃあこの俺は、一体何に震えているのか
高く、「ハァハァ……クッ」圧倒的に高くそびえるーー壁。「ハァッ……」
少なからず辿った今だからこそ断言できる。この『壁』は人生の難所のひとつに違いない。超えれぬ試練を神は与えないと英語の先生が聖書に書いてるとかなんとか言っていたが、
それにしてもあまりにも残酷な"壁"
なにがこの壁をより高くする要因なのか、考えずにはいられない。ーー「ハァッハァ……」
飄々と笑顔を振りまきいとも容易く跳びこえる猛者がいる事。また一説にはコツがあると綴る者。どれも憶測に過ぎぬと下を向き一心不乱に跳びこえようとする者。そして……それを嘲笑う者。ーー「……ングッ」
其々がそれぞれの思惑を胸にひしめき関与し合う、いわゆる地獄の沙汰
渦中に呑まれ苛まれる事、それが此処、岩崎小学校に集う、六年A組に属する絶望の義務なのだ。ーー「ふはぁッ」
あと幾月かもすればきっと、この地は 俺達にとって、学び舎と呼べる物ではなくなるのだろう。つまり残された時間はーーあと僅か。
(回数にして、あと何回だ?)ーーわからない。
わからない事だらけだが、これだけはわかる。ーー「ハァハァ……」……俺らに時間は それ程残されちゃーーいない。
明白の絶望に両の世界がどんよりし始めた頃、左斜め後ろから金切り声が上がる。「ハァッ……で、できた!」
(やかましぃッッ!!)心の中で叫んだ。3回程強く叫んだ。山田はいつもこうなんだ。
「え?山田くんついに 二重跳びできたの?」斜め前の谷口さんが母性を撒き散らし振り返る。振り返り際に一瞬俺を視界に捉えすぐに逸らした事は二度と忘れないだろう。
「うん!……やっと、できた!」表情を視界に捉えずとも見える笑顔で山田が答えた。ーー「ハァッハァハァ」
遠足での山登りの時も、長距離走マラソン大会の時も、この斜め後ろに居座る山田コウタって男はいつもいつも、絶え間ない努力と不屈の精神で超えてきた。(クッ……)
クラスから笑い者にされようとも物ともせず前を向き励む様に周囲はいつの間にか一定の評価を置きはじめ、気がつけば俺も惚れ惚れと見てしまっていた。
これが出席番号ひとつ違いの『頑張る方の山田』だ。ーー「ハァッ……」
そのひとつ前『できる山田』こと俺、山田ユウタを挟んで先頭側、これまた現在笑顔で佇む母性の象徴、谷口ミキだ。ーー「ハッハッ……」
谷口が大きな目をさらにパチクリと開き笑顔で『頑張る山田』を褒めている。「山田くん凄いね!」……「やっとできたよ!……頑張って何度も挑戦してみてよかったや!」
谷口の可愛いお目目がチラとこちらを見るがまたコウタに振り返る。できる山田ができてないと言うそこにいるだけで矛盾を孕む。
『アンタッチャブル・俺』は谷口の様子からうかがえる様、この試練の時『なわとびの時間』では、完全な腫れ物扱いだ。
コウタと俺に一体どんな差異があったと言うのだろうか。努力を数値化するならば、ほぼ同じ時間、ほぼ同じ回数、こちらとて 全力で跳んでいる。なにがまずいと言うのだろうか。ーー(ハッハぁッッハ…やはりわか) ーーッッ⁉︎
ビッと一瞬、臀部から眉毛の辺りへ 極めて早く、
心地いい風が吹き抜けた。ーー瞬間。
かかとと土の間に明らかな存在感を放って挟まれる
二週目に差し掛かる寸前のなわ。ーー「ハァッハァハァ……」
ここにきて何かが見え始めた。
(なんだ……今のは……。)
問う端から答を知っていた感覚。
高くそびえ立つ壁の端に手をかけた、長く苦しい息継ぎの果てに気付いた、確かな達成感。
おまえはいつまでもゼロ地点ではなかった、と言う自己からの福音。ーーー「ハァ……ハァ……」
激しい運動のせいか、動悸は止まらず全身の毛穴がひらかれた感覚は覚めやらない。「ハァ……ハァ……。」(なんだ……簡単な事だった……。)
『二重跳び』その言葉の響きに完全に欺かれていた。普通の『前跳び』から至極当然として、その回し手を倍速にすれば辿り着く境地だとばかりに信じきっていた。
だが真実はシンプルに、手の如何ではなく"如何に高く跳ぶか?"これが答えだったんだ。
腕は体育の時間中延々と回し続けた事により、等に限界を迎えていた。挙句息も絶え絶えな連続運動による疲労、それら全ての要素が偶然にも重なり合い、
俺の手足からは余分な力が抜けたんだ。ーー「ハァハァ……。」
【ユウタはグッとなわとびの柄を握る。】
(今掴んだこれは……実感!)
(時間は⁉︎……後何分だ⁉︎)
【目を凝らし校舎に貼り付けられた時計を凝視する。】
後……十……五分……。お片付けやお着替えを考慮して差し引いても五分はある…イケるッ!!!ーー「フッフッ….…」
まずは基礎『前跳びッ!』
【難なくと、越えて行く。確信にも近く、明らかに変わったユウタの顔つきに前方の谷口ミキと斜め後方の山田コウタの視線は集めずにはいられなかった】
(もしかして…………コツを……掴んだの⁉︎)【谷口ミキは応援したいが、負い目のような物を背負って気まずそうにしてたユウタを前にそれさえ躊躇していた。】
「が、がんばれ……」【山田コウタもユウタが同じ峠を越えようとしている事に気が付いた。その苦しさを知る者として 応援を口に出さずにはいられなかった。】
ーー「フンッ……フッフッ……」ここだッッ!
【彼はここにその生涯の全てを賭けんとばかり、高く ーー跳んだ。】ーーできたッッ?【ビシィッッ!!!】
ーー現実はいつだって無情だ。ーー
即座に全身を駆け巡る痛覚の電撃。
誰もが経験ある通りこの冬空の下、全力でしなり、ほとばしる、なわとびの縄の痛い事。「クッソぁぁ!!!」応援ムード一色だった両観戦者も悲痛の表情に目を背けそうになる
(頑張って……。)目にジワリと溜まる涙から痛みを容易に想像してしまえた谷口ミキは
誰に教わるでもなく奇しくも偶然、
聖母 マグダラのマリアと同じ 拝みのポーズを取っていた。
「あと……少し……だよ……。」やっと登ったと思った峠に続きがある絶望感を知る山田コウタはその心の苦しさを憂いた。
「チッ……」(ま、まだ……やれるさ……。)
山田ユウタの辞書からは既に"諦める"の項目が無くなっていた。「ハァハァ……」(つ、次こそは…)
ーーッッ⁉︎(じ、時間は⁉︎)……既に十二分を切っていた。
(あと……二分。挑戦できて 二回……ってところか…。)
「ハッ!」山田ユウタは上がる息を小さく嗜める様に気合の一呼吸を放つと、天高くそびえる壁へ向け、またなわを振り回し始めた。
「フッフッ……。」「フッフッ……。」「フッハッ……フッ……」谷口ミキの合わせられた手に力が入る。山田コウタも瞳がまばたきを忘れる程、緊張を得ている。「フゥ……フゥ……」「ハァ……」(ここだッッ!)ーー「ハァッハァ……ぁぁあ!」
跳んーー……【ビシィッッ!!!】でいない。ーー
「ハァハァ」(……まだ……なのか……)(まだ……ハァ……足りねぇ……って……)「フゥ……」(言うのかよ……)
即座に跳ぶ。ハァハァ……ハァハァ……「ハッハッ……。」
(がんばってッッ!)(あと…すこしだ!)「ハッ!!!」
ゆっくりとなわは弧を描く。ーー命がひとつ産まれ、その反対側ではひとつ 命が失われていく。ーー
ーー正義の向こう側にはまた違う正義があり、守るべき家族がいる。ーー
ーー死にたい誰かは今日も苦しみ生き、生きたい誰かは今日も泣きながら死んでいく。ーー
ーーこの世は常に、敗者も勝者も等しく苦しみ嘆き哀しみ其々の計りの痛みを受けていく。ーー
【ビシィッッ!】もう秒針は九時を越え、体育教師はその手の笛を鳴らすべく息を大きく吸い始めていた。谷口ミキは耐えられず目を閉じた。と、同時に山田コウタは目を見開いた「……ッッ!」
(内のコウタがいつもお世話になってまー……ユウター!今日の晩御飯はなにがー……ねぇねぇ、こないだ佐藤くんがぁー……インテンダースウィッチほしいー…)(な……んだこれ……。)
(産まれてから今までの景色が全て…思い出せ…ている?…)ーー人は命の数だけ哀しみの涙を産む。なのにどうして尚も生きて行こうと足掻くのかーー
ーーそれはーー(……見えた。)
【ヒュンヒュンッッヒュンヒュンッッヒュンヒュンッッヒュンヒュンッッ!】「や……」山田コウタの歓声より少し早く
【ピッピーーー!】ENDの汽笛が鳴る。
「はい!!今日はこれでおしまいじゃー!!みんな片付けして教室に帰れー!!!」
一寸間をおき……「やったああああ!!! 」山田コウタが歓声をあげる。
「がんばったね!ユウタ君!」谷口ミキが目に浮かべた涙を恥ずかしそうに拭いながら祝福を贈る。
「ハァッッハァ…………いや……違う。」山田ユウタの言葉に真意を得ずキョトンとする二人。
ニッと泣き笑い、両者に手を差し出す山田ユウタ。
「ありがとう、だ。」
「あ、ありがとう?」「……あり……がとう。」「あぁ、ありがとう。」
「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「おりごとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「おりごとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」
ーーよくわからない思春期独特の高揚感の中
ありがとうの大合唱を巡る彼ら三人を冷ややかな目で通り過ぎる他クラスメート達……だが取り巻きはまだ知らない。
いずれ学ランとセーラー服に身を包んだ彼等が『グレート3Y』の通り名を知らしめ町ぐるみでグレートになるそのキッカケが今目の前に花咲いている事を……。
は?
テーマ?
【なわ跳びが跳べた】だ!!!
これは実話なのですが私が小学生の6年の卒業を間近に控えた日、
卒業アルバムに載る
『小学校でいちばん印象に残ったおもいではなんですか?』のコーナーで
長距離遠足でも社会見学でも少年自然の家でも修学旅行でもなく、
産まれて初めて二重飛びが出来た日の感想を選んだ。
最初はただの思いつきだった。
なんせこれをテーマに作文用紙を埋める生徒はいないだろう、と。
先生がどんな顔をするものか、発表した時クラスのみんなはどんな表情を見せるものか
それらを楽しみたいが為、逆算しエピソードを選んだのだ。
しかし書き始めて見るとどうだ?
存外……楽しい……いや……
元々「宿題」などと呼ばれる理解したことを家でも繰り返す、復習だとかまぬけな文化が死ぬほど嫌いだった私は、そもそも字を長々と書く事が嫌いな小学生だった。
けれどふざけた理由で書き始めた作文と言う行為はとても面白かった。
書くうちに自らが書き進めた文により気付かされた。
『私はできなかった二重飛びができた事がとてもとても、嬉しかったんだ』と。
できて当たり前、笑う誰かはあってもできたとて誰も褒めてなどくれなかった。
けれどできなかったことができた充実感
果敢に挑戦し続ける事で得た苦しみが報われた瞬間。
その得も言えぬ幸福感が私を包んだ。
こうして私は作文を通して
自分にとって本当に好きな物嬉しい物素敵な物は
必ずしも誰かと同じじゃないとダメなんかじゃないと気付かされました。
大人になった今なら言える月並みな言葉、『価値観の相違』
それは人の数だけあるものなんだと教わった物語を元に書きました。
ちなみに何時間もかけた作文は先生は大絶賛してくれたがクラスのみんなからバカにされました。未だに根に持ってます。