何とも言えない。
誕生日である今日。
朝起きてまず思ったことは、今日が来てしまったか、だった。
最初は両親に会えるのを楽しみにしていた。だが昨日、カトリーヌさんから俺の家のことを聞いてとてつもなく不安になってきたのだ。
一つ目の不安点。それは俺の家は男爵家なことだ。三男なので当主にはならなくてよいが、最低限パーティーにはでないと行けない。俺は貴族様特有の裏を探る会話なんてできないししたくもない。まず貴族の会話だなんて、一般家庭で育った俺ができるわけがない。
なにより俺は人と上手く喋れないのだ。だってよく考えてみろよ!?ここ二年、喋ったことがある人はカトリーヌさんだけだし、生前(といって良いのか?)はコミュ障だったりで、俺のコミュニケーション能力は底辺まで下がっている。
赤ちゃんだったから意思疎通は最低限にしとこうとか理由をこじ付けてカトリーヌさんとのコミュニケーションを極力避けてたとかそういうことは、ない、うん。ないよ。ないよ!?
閑話休題。
二つ目の不安点。上の二人の兄とは母親が違うこと。どうやら次男を生んだ後、産後の日達が悪くて亡くなったらしい。俺は後妻の生んだ子らしい。正直いびられる気しかしない。男爵は第一夫人を愛していたらしいし、後妻となった俺の母親も悲しみに漬け込んだような形で妻になったらしいからな。カトリーヌさんはオブラートに包んでくれたけど、要約したらそういうことだろ。
最後の不安点は、今日が俺の二歳の誕生日なこと。本来は一年前に会う話だったが、俺の母親の浮気が発覚したことであやふやになったまま今日に至ってしまったらしい。何で浮気とかしてんの!?男爵の愛が得られなかったから?じゃあ悲しみに漬け込むなよ!?大体、浮気が発覚して忘れてたからって二年後にするってことは、あまり興味がないのだろう。三男だし別に要らないと思っているだろうことは想像に難くない。
取り敢えず、俺に少し時間をくれ。身構える時間を・・・!!
祈った瞬間、扉がノックされて固まった。
「おはようございます。カタナ様。既に旦那様は執務室にてお待ちになられております。」
一拍おいて、俺の今世の名前がカタナ=イズミ=アーセナルだったことに気付いて絶望した。
「ここ、で合ってるよな?」
執務室前、なう。
あんま嬉しくない。というか絶望しか感じない。だってさ、よく考えてみればおかしいんだよ。いくら一年間は両親と会っちゃいけないからってカトリーヌさんだけしか人を見たことがないってどうよ?浮気とが発覚した後なら未だしも最初からだせ?そういうもんなの?いや、違うだろ。浮気女の息子だから興味がない訳じゃなくて、元から俺に興味ないよね。・・・自分で言っててちょっと辛い。
トントン
「旦那様、カタナ様をお連れしました。」
カトリーヌさんが執務室の扉を叩いて声を掛ける。ちょっとしゃがれた低めの声が「入れ。」と返事を返した。
扉を潜って目があって、俺はとてつもなく後悔した。
鋭い目付きの中に薄い青色の瞳が映る。ただただ冷たいだけの青色じゃなくて、錆浅葱色、とでもいうのだろうか。薄い青色の中に少しくすんだ緑掛かっている。優しい色だ。しかも、お母様が無理矢理後妻になったことを理解できるくらいにはイケメンだった。昔は大層モテていただろうことは想像に難くない。ただ、陰険そうな顔付きが優しさの全て打ち消しているが。誰か蹴落としただろって顔をしている。ま、まあ?顔で判断ってよくないよな、うん。
「カタナか。」
「はい。はじめまして、おとうさま。」
お父様は俺をじっと見つめているのを感じた。ちなみに俺は最初に目があった瞬間視線を逸らしたので、お父様がどのような表情をしているのか全く分からない。だってこの人怖い。
「・・・もうよい。」
「、はい。」
お父様の声は俺に全く興味がなさそうだった。静かに頭を下げて部屋から出ていく。カトリーヌさんの憐れんだ視線が何とも言えない。なんかごめんカトリーヌさん。