休日が終わる日。
折角の休日が終わる一時間前、相馬陽炎はベッドの揺れる感覚で目が覚めた。気付いたら寝てしまっていたらしく、付けっぱなしの電気はチカチカと瞬いて目に優しくない。陽炎は眩しい光を我慢するかのように目を細めた。
揺れるベッドは収まる気配がない。
「・・・また地震かー。」
俺が気付いただけでもここ一週間でもう4回目だ。いくら何でも多い気がする。けれど、ベッドの中から出る気は起きなくてごろんとうつ伏せになる。ガタガタと鳴っている俺の私物はあまり揺れていなくて落ちる心配がないとほっと息を吐いた。
「・・・ん?」
そう言えば、これって初期微動じゃね?ほら、小学生の時に習ったやつ。初期微動が縦揺れで主要動が横揺れとか。縦揺れよりも横揺れの方が物が揺れるから、主要動が来る前に窓を開けるなどして避難経路と身の安全の確保が必要だとか。
周りを見渡して、縦揺れであることを確認する。つまり今起きている揺れは初期微動ということだ。これだけ初期微動が大きいのだから主要動は更に大きな揺れとなるだろう。
つまりは、まだ大きな揺れが来る・・・?
慌てて飛び起きた俺を嘲笑うかのように身体が大きく揺れて目の前が真っ暗になった。
########
ふと意識が浮上した俺を待っていたのは意識を失った時と同じ真っ暗な闇だった。身体を動かそうと身動ぎするが、十分に動かせない。
やべえ。
自分の顔からさっと血の気が引くのを感じる。
俺、まさか天井の下敷きになったりとかしてる可能性ある?
落ちてきたら危ないような物はベッドの周りに置いていないのだから、身動きできないとなると天井に挟まれた可能性しかない訳なのだが。
取り敢えず今の内に助けを呼んどかないと、このまま野垂れ死になんて事も有り得る。まだ周りは暗いし、俺が気絶してから時間はあまり経っていない筈だから人が近くにいるかもしれない。
助けを呼ぼうと、誰か、そう言い掛けて声が全く出ない事に気付く。
(何だよ、これ!)
見えないし動けない。声も出せないとなればもう笑うしかない。
本当かどうかは知らないが、誰かが植物人間は耳が聞こえているのだと言っているのを思い出した。確かに人間の機能で一番最後まで残るのは聴力だから信憑性はある。
さっきから時々聞こえてくる話し声。俺自身を包み込む温かいもの。俺が植物人間になってベッドに運ばれただろうことは想像に難くなかった。
そんなことを考えていたからか、少し固い顔をした医者が俺の口に付いた呼吸器を外している想像がすぐに思い浮かんだ。泣きそうな顔をした家族が俺を囲って見守っている。
ただの、想像だ。有り得ない。日本では一度着けた呼吸器を本人の許可なく外すことは犯罪だ。けれど、気付いてしまったのだ。
今、急に呼吸が苦しくなったのも、頭がだんだん痛くなっていくのも、俺がもう直ぐ死ぬから。
今までの人生で楽しかったことが早送りの映画のように思い起こされる。これが走馬灯というやつなのだろうか。
・・・嫌だ、死にたくなんか、ない。
次々と浮かんでくる記憶が霞んでいくと同時に消えていく気がした。口うるさいけど家族想いな母さん。母さんに怒られたときは必ず口をつぐむ父さん。自慢ばっかりで唯我独尊な兄ちゃん。調子のいいときだけ甘えてくる弟。何気ない日常だったけど賭けがえのない思い出。忘れたくない、と強く願った、その時だった。
急に光が差し込んで目の前が開けた。ぼやけた視界に映るものは目に痛いくらい強い光と、ぼやけた誰か。理解できるのは聞いたこともない言語だけ。
俺は転生したのだった。