『プロローグ』
「さて、ここでメシを食うか」
一人の男がいう。
その男の身長は普通より高いくらいで、顔はすっきりとしている。
髪はくすんだ金髪。肌は白い方で、顔はどこかあどけない。
「そうだな、クリス。にしてもピクニックなんて珍しいな!」
もう一人の男が言った。
その男は、痩せ気味で顔も普通でどこか頼りない。
肌は焼けてる方だ。
唯一身長が高い。茶髪の青年の身長に一つ頭を乗せたくらいはある。
特徴としては、茶色に近い黒の髪を持った長身痩せ型といった感じだ。
初めに口を開けた青年。クリスはいう。
「そういえばギール。最近景気はどうだ?」
ギールと呼ばれた細身の青年は口を開け、手のひらサイズのサンドイッチを口に頬張りながら喋りだす。
「クリス、それがよぉ……大雨のせいでコンが腐って今年は大変な事になりそうだ」
ギールと呼ばれた青年は、農業と軽く鍛冶をしてるどこにでもいそうな平民だ。
「そりゃ大変だったなぁ。まさか、あんたの畑じゃコンが売りの品だろ?」
「二束三文の覚悟もしないといけないぐらいだ」
「うへぇ〜」
クリスは十四になってから見習い隊の前衛として主に指揮をとって相手を斬っている。とは言っても剣の腕は並大抵の普通な青年。いや、少年と言ってもいいだろう。
「俺はこの後、畑でコンを植えないといけないから先に帰らせてもらう」
痩せた青年はそう喋りながら、荷物をまとめる。
その後、その体とは思えない速さで家に帰っていった。
「まだ、時間はあるな」
そう言いながら黄昏時の道を歩いていた。
村から離れていた為か土を踏み固めただけの簡単な道で、少し湿っている。
「キャハハハハー! 帰ろうぜ」
すぐ横を子供が駆け抜けていった。
数十分後、暗くなり始め、あたりはすっかり静まり返った。その間、子供が横を通ったり、鳥が俺の頭にフンを落とそうとしてきたり、ぬかるみで足を滑らせたりと言ったことが起きた。
そろそろ自宅に帰ろうと家路を急ごうとしたところに、分かれ道がある。その場所は少しひらけている。
「ちょっとここで休むか……」
疲れたので一休み。後ろの草むらから音がした。
この分かれ道は村の近くで空気中の魔力の量も少なく魔物は滅多に出てこないはずだ。
また草むらから大きな音がした。少しずつだが恐怖で張り詰めた雰囲気になる
「誰だ!」
音がした方向に体を向ける。
この時間帯に村の近くで大きな影。草むらから出てくるとすれば人か犬ぐらいだろう。
「おい、そこのガキ! 持ってる物を全て出せ! で無いと……」
草むらから、黒いフードの付いた服を着た男が出てきた。
その男は、フードの付いたケープのような物を着ている。
とても低く細い声だが同時に恐怖を引き出す声だ。
少々サイズの大きい濃い灰色のズボン。装飾品などはない黒いボロボロのケープ。腰には剣の鞘のような物が見える。灰色の長い髪を覗かせている。目は暗くてよく見えない。
奴の腰についてる鞘から剣が抜かれた。奴は短剣使いだろうか。奴の持つ短剣は妙に黒い気がした。
「殺す……俺の名は《黄昏の殺人魔》イートデス! 今から貴様の死を貰う」
「まさか! 犯罪ギルド! 貴様、窃盗ギルド《黄昏の怪盗魔》の真似事か……人の命を軽々見て! 宝石ほど人の命は軽く無いぞ!」
俺は奴の行いを止めるべくそう言い放ったが、俺はどうも奴を油断していた。
「は? 犯罪だ? 窃盗だ? 怪盗だ? あんな金と女と酒にしか興味の無い連中と一緒にするなよ、株が下がっちまうじゃねえか……ハハハ」
「株? 戯言しゃべる暇があるなら人より職を探すんだ!」
俺がいうなり奴はそういった。もちろん奴はこんな言葉で行いを止めるほど弱くはないだろう。
「黙れ、ガキの分際で……職だ? これが職だろうが脳筋め。
いいか、俺は金みたいに価値が上がったり下がったりする物に興味はねぇ……。
宝石みてぇな軽い物も要らん……酒なんて自己を偽る為の泥水なんていらねぇ...…。
女なんて下品で弱いくせに色っぽい身体で寄って来る...…その上、臭い液を体中に撒き散らす。そのお陰で器用な鼻が壊れる。
そんな汚らわしい物より、純真無垢な人の命のほうが欲しい...…命以外は何もいらん……。
人を殺す事が俺の職であり『ジョブ』だ」
奴は怒りにシワを寄せていた。
「――ッ!」
イートデスと名乗る狂乱者の狂った言葉に何も言えないまま時間が経った。
なにかが飛んできたように見えた。 その瞬間、頬にどこか冷たくも焼き焦がされるような痛みが走った。
「うぐっ!」
声が出てしまった。いくら、前衛の剣士(見習い)とはいえど痛みに慣れてはいない。
「スイートタイムはこれからだ...…」
奴はそういって微笑んだ。
「今なら持ってる物品と右腕で許してやる……どうする? 死か右腕?」
俺は負けたくなかった。たとえ金品と右腕だけであっても、俺にとっては敗北だ。
腕を切られ、生きるか、死を決して奴と戦うか。
言葉が出ない。
痛い思いはもうしたくない。死にたくなんてない。
でも、俺は奴に。イートデスに負けたくはなかった。だとしたら死を決してまで戦うまでだ。
「…………」
地面を見てみる。 黒く湿った土、散ったサラの花。
ついでだが、サラの花はサラの木の所々に咲く桃色の花だ。念のため。
そんな場所で俺は見つけた。
サラの花が所々に散った地面の片隅に鉄で出来た、ボロボロの棒を。
俺はその棒を拾う。
鉄の棒の所々に出来た棘が手の平に刺さり、血が指と指のあいだから滲む。
地面を血で濡らし、手の痛みに悶絶しながら前を向く。
「んっ?」
奴は油断していた。
この時ばかしと棒を振って奴を倒そうとした。
「ほう、抵抗するんだな?」
棒はいとも簡単に奴の持つ短剣で止められた。
ひらけた場所に甲高い金属音が響いた。
「くそ!」
棒が叩き折られた。
「抵抗したという事は死にたいんだな?」
奴はそう言い放った。
「ぐぁ! ガァァァ!」
――痛い! 痛い! 熱い! 熱い!
右腕に鋭い痛みが走った。
体のありとあらゆる場所が震え、腰が抜け、足は言う事を聞こうとしなかった。
それでも、立ち上がった。いや、立ち上がれた。
「フッフッフッ、いい顔だ。もっと俺を楽しませてくれ……」
人の物とは思えぬ嗜好を奴は語る。
右腕を見る。血が吹き出ていた。
余談だが、右手が斬られる瞬間、棒を左手に持ち替えた。その為、武器自体は失ってはいなかった。
叩き折られた棒を振った。もちろん敵に届くわけも無いがこれも作戦だ。
「アホか。短い棒切れなんざ蚊の羽音にも過ぎん……」
俺はその棒を奴の顔に投げた。せめてこの一発でもと思いながら。
「グッ!」
奴が声をあげた。投げた棒は見事に弾かれたが、奴の行動に隙を作ることはできた。
「いける!」
全力で右手を出して声を上げる。
「我に神の加護と知恵を恵んで下さいませ! ファイヤーボール!」
「ほう、そう来たか……」
魔術だ。
概要を詳しくは知らないが、なぜかその呪文を知っていたので、出まかせでその呪文を唱えた。
――なんででないんだ! クソ! クソ! クソ!
ボフっと、情けない音と共に煙が出ただけだった。
涙が頬を伝う。手が震え、足が震えた。寒気、恐怖、痛覚。
全てが自分の精神も、肉体も傷つけた。
「なぜだ? くそ……我に神の加護と知恵を恵んでくださいませ! ファイヤーボール!」
――ふざけんなよ! クソ!
「ファイヤーボール! 出てこいよ……ファイヤー! ボール!」
「なんだ? 魔法ごっこか? ハハハ……次は俺の番だな? ハハハ...…ほら行くぞ!」
奴は更に斬り掛かってきた。
――熱い! 熱い! 熱い! 熱い!
「ガァァァ! ハァーッハァーッハァーッ……」
うつむけに体が倒れるのと同時に、焼かれるような痛みが腹部を襲う。
すぐに何が起きたかはわからなかった。
頭がその惨状を受け入れようとしない。頭の奥の何かが動こうとしない。
なぜなら、何が起きたかすら理解できていないからだ。
腹部の元には生温かい液体のような物が流れている。腹の方をやっとの思いで見る。
すると真っ赤な液体が見えた。もしかして血……まじすか。
腹部を流れる小さな血だまりは全て俺の血なのか。だとしたら、まじで頭がおかしくなりそうだ。
そして、やっと理解した。狂った男に腹を切られて己の血をぶちまけたんだと。
「やり過ぎたか? ハハハ。内臓は無事だろ?」
「……」
――死にたくない! 死にたくない! 俺が何をしたんだよ!!
「最後に言いたい事はあるか?」
奴は楽しげに死の宣告をしてきた。
「ケホッ……ケホケホッ。グハッ」
臓腑のどこかが裂けたのだろうか。
喉に生温いどろっとした液体が込み上がり、口から血が出る。
「――ファイヤー……ボール……」
吐血しながら声にならない声で言った。
火花が手から出た。既に手遅れだけど。
奴は黙って短剣を握る右腕を持ち上げた。
俺は目を瞑った。
ーー死ぬしかない……。
顔が温かい液体で濡れたような感覚をうっすらと感じ取った。
その温かさを感じたすぐ後、クリスは体から何かが抜けたように動かなくなった。
『人族歴三千二百十五年、サラ月十日。陰七刻頃、クリスは殺された』
***
――何故、意識があるんだ?
目の前には暗闇の世界がある。
――死んだのでは? ここは死後の世界なのか?
あれこれ考えていると、空間に音楽のような物の音が響いた。
変な音だ。今までに聞いたことのない音で、恐怖心が芽生える音だ。
「ここはどこだ? 何故、斬られた右手があるんだ? それと、この音はなんなんだよ!」
そんなことを考え、混乱した中、前を向いてみた。
目の前に謎の文字がある。
「確か? 天界語だよな……」
《GAME OVER》と書いてある。勿論読めない。
下には《CONTINUE》その横には《EXIT》と書いてある。
手元を見ると謎の画面があった。
その画面の左側が光っていた。
その画面の右側に触れてみた。
画面の右側が光ると同時に、眼前の《EXIT》と書いてある場所が光った。
「左だな!」
俺は直感でその画面の左側を強く押し、画面の下にある突起式のボタンを押した。
《クリスはCONTINUEを押した》
その瞬間周りが白くった。
「……ッ!」
その瞬間、意識が飛んだ。
コンとはこの世で言う所の大根です。
サラは桜の事でこの世界での一年は十二の月々から成り立ち、でそれぞれが何かしらの名前で呼ばれてます。サラ月=四月です。