おかしな兵士
用意は必要だ。ティーナの氷魔法に大量の塩。
「氷に塩をかけると早く溶けるっていうだろ? その時、氷は普段より冷たくなるんだ」
俺はそう言う。ティーナは俺からの説明を聞いてうんうんと唸った。
俺は今自分の部屋にいる。できればキッチンくらいは使いたかったが、王宮のキッチンは今コック達が使っているし設備も整っていない。
まあ、もちろん水道や冷蔵庫がある事まで期待してはいなかったが、設備の整っていないキッチンで作っても俺の部屋で作業をしても同じだ。
ティーナは自分でもソフトクリームを作りたいを思っているらしい。
お店を作って出すつもりらしいが冷蔵機もなしにどうやって保存する気だ? 注文を受けてから作っていたらお客さん帰っちまうぞ……?
まあ、どうやる気かはいい。俺は俺で考えなきゃいけないことがあるからな……
まだ、部下がカカオを買ってきていないので作れないのだが、ただの水をボウルに入れてティーナが練習をし始めた。
「すぐにカカオが来るんだよね?」
「そうだね? デイナ? あいつらの様子は?」
俺は聞く。
「みんなお目当てのものは買っているよ。こっちに帰ってくるところみたい」
デイナがそう言うならすぐにでも作れるようになるだろう。
俺はソフトクリームのコーンを作る事に切り替える。
俺が自分で作るのでシィは手持ちぶたさになっている。シィは王宮内の散歩に出かけてしまった。
「城兵に見つかって『子供の来るところじゃない』なんて言われて追い出されてはいないだろうか……?」
俺はそんな事を言った。そうするとフェリエが笑う。
「そんなヘマをするようなら二度と帰ってこなくてもよろしいですね」
「はは……確かに……」
いくらなんでもそんな事はないだろう。シィだって俺の付き人として来ているんだし、何か身分証の類くらい持っていたはずだ。
「エーリッヒJr様……」
城兵が俺の部屋のドアをたたいた。
「入ってきていいですよ」
そう言う俺。兵士は俺の部屋に入ると不思議そうな顔をした。知識がないと何やってるかわからんだろうな。
「報告があるのでしょう?」
俺はその兵士にそう言った。
「はっ……エーリッヒ様の部下を名乗る子供が城の前で騒いでいるのですが、あなたの御付のものなのですか?」
「そんなも者は知りません。追い返してください」
兵士の言葉を最後まで聞きもせずにフェリエは言う。
それに敬礼しそうになりそうになった兵士に聞こえるようにして俺は言う。
「こらこら……その子って緑の髪に緑の目の子?」
そう、兵士に俺は聞いたが俺は確信していた。シィしかいない……
大方王宮を歩いているところに兵士に見つかってつまみ出されたのだろう。
門兵に話して中に入れてもらおうとしていると……
「こちらに通してください。私の支援人です」
俺はそう言う。
「ですが、そのいでたちはどう見てもただの使用人です。本当に入れてもよろしいのですか?」
「使用人なんてシィしかいない。入れてください」
俺はその兵士に向けて言った。
「まったく……何をしているのですか?」
フェリエはシィに向けて言った。
フェリエはいつもはシィに言いくるめられる側だ。シィに言いたい事を言えるのはこの時くらいのものだ。遠慮なくビシバシとシィに言いたいことを言っている。
「身分証くらいいつも持ち歩いていないといけません」
「そう言いましても……何も持っていないのです……」
「なければ作ればいいでしょう?」
そうだな。俺がシィに身分証の一つも作ってやらなかったのが悪い。申請をして何かもらうべきだった。
だが今はそれを言わない。
フェリエの顔がめっちゃニヤついている。
シィもそれに気付いている。今の状況的に言い返せないので、シィは耐えているところだ。
『めっちゃ握り拳作ってる……』
俺はシィが思いっきりこぶしを握っているのを見てそう思った。
この状況はシィにとってかなりの屈辱のはずだ。
フェリエも俺と付き合って年齢以上の思慮を手に入れている。この状況ではたとえシィでも黙るしかない。
むしろ言い返せないような言い方で言っている。
『こういうところは覚えないでほしかったな……』
フェリエのずる賢さが上がったのを見て俺は少し残念に思った。これから先俺の奥さんになる子だしできれば純真無垢のままがいい。
なんて考えているのがシィにでもバレればまた白い目で見られるだろう。
シィの様子を見ると俺の頭の中にまで構っていられないようだ。
そのうちフェリエの言葉も尽きるだろう。少しすればそれも終わりシィは俺の隣で知恵を発揮してくれるだろう。
「俺も『あれはないわー』って思ったよ。とにかく身分証を作るまで、俺の隣から離れない事。いいね」
これは俺の本心だしシィも自覚があるはず。
「申し訳ありませんですわ」
シィはフェリエにこってり絞られたので俺からは注意だけにとどめておき、ソフトクリームの制作に戻る。
「でもおかしいんです。あの兵士は何か隠している様子でした……」
シィは周囲をキョロキョロと見回しながら歩く兵士を見つけた。彼の様子があまりにも不審だったもので、彼の事をこっそりとつけていたらしい。
「頭の中を深く読めるほどの近くには近づいていなかったので何とも言えませんが、おそらくその兵士は……」
「はい? それは本当なのかい?」
「はい……一瞬だけ彼の心の中を読みました」
その兵士はこう考えていたのだという。
『女王を殺そう』
シィはそう考えているのをその兵士から感じ取ったのだという。