らんち いん ざ でざーと
「知らない、天井だ」
いや、ね?マジで知らない天井だよ。
というかさ、昨日の夕食の記憶が途中から無いんだ。
そして、目覚めたらこのテントで横になっていた状態。
「どこだ、ここ?…とりあえず外に出てみるか」
寝ぼけ眼を擦りながら外へ出てみた俺を、いきなり黄色い嵐が襲い掛かって来た。
「うげッ!?ゲホッ!なぁ゛んだ!?」
黄色い粒々の何かが俺の全身に、猛然と当り散らして来る。
これは、砂だ。砂漠の砂だ。
慌ててテントに戻ると、今まで俺が寝ていたテントに他にもう一人、人がいることに気付いた。アジア系の男だ。
何か本を読んでいるようだ。
「えーっと、ぐっど もーにんぐ?」
「チィゴウ」
「え…?」
ちぃごうって何語?
なんてボケッとしていると、男が本を閉じて俺の方に体を向けた。
「コンニィチィワ。ワタシィ 楊 玉祥。チュウゴクジン ドヨ」
「に、日本語?!」
まさか、こんな砂漠の果ての地で日本語が聞けるとは思わなかった。すごいたどたどしいけど。
「イィマ ジュウイィチィジィ。ドカラ オハヨウ チィゴウ」
「すげぇ、外人が日本語喋ってるよ…なんで?」
「ワタシィ ニィホン デ アルボイィト シィテタ。ドカラ ニィホンゴ スコシィ ワカル」
「え~と、俺の名前は岡田 武。おっけー?」
「オーケー オカド タケル。ヨロシィク」
「よ、よろしく。…ところで、さっき何時って言った?」
「ナンジィ? クロック ノ コト?」
「そう、クロック。今の時間」
何か、凄く嫌な予感がする。
「ジュウイィチィジィ ドヨ。 English ドト eleven o'clock ドヨ」
「やば…、飛行機もう行っちまったかも…」
「ドイィジョーブ。コノ アタリィ ノ スナ ノ アラシィ ハ air port ノ アル マトワール モ オソウ。ドカラ ヒィコウキィ トベナイィ」
「そっか、砂嵐か。それじゃあ飛行機も飛べないよな」
「ドモ ヨル アラシィ ナクナル。 ドカラ オカド タケル ヨル air port イィク」
「わかった。夜に出発だな」
「Yes. ワタシィ ノ シィゴト コレ ツタエル コト」
「マジか。ありがとう、サンキュー」
「ドウ イィタシィマシィテ」
とりあえず、とりあえず飛行機には間に合いそうだ。よかった。
「ソレト モウ ヒィトツ。オヒィルゴハン」
「お、っと。ありがとう」
投げ渡されたそのお昼ご飯を見てみると、濃緑色の紙箱で中に何か硬いモノが入っているようだった、
箱の表には『09压缩干粮』とプリントされている。
食べ方が分からずヤンの顔を見ると、
「ソレ ィヤースオガンリャン。オイィシィヨ。チュウゴク ノ …」
ヤンの口が止まった。
「中国の、何?」
「チュウゴク ノ …アブナイィ ゴハン」
「…え?」
ボトリ
その、ィヤースオガンリャンが俺の手から滑り落ちた。
「チィ チィゴウヨ! ィヤースオガンリャン オイィシィ! ナゴモチィ! アブナイィ! ドカラ ジシィン ノ トキ モ タベル!」
「えっと、えっと、つまり非常食?ビスケットみたいな」
「ソウデス! ビスケット! ヒィジョーショク! アブナイィ ゴハン!」
ヤンの説明の通り压缩干粮という危ないご飯は、非常食そのものだった。
硬くてボソボソして、食べると腹が膨れた。
そして、ヤンは嘘をついていなかった。コレは地味に美味しい。