その国は―
ネジマ共和国
国土面積896000km²
人口3550000人
北アフリカのその小さな国は1950年の建国以来、実に平和な歴史を綴ってきた。
西はリビア、東はエジプトと2つの軍事国家に挟まれつつも大した紛争も無く平和であった。
だが、そんな平和な国に突如として内戦が勃発した。それは2012年3月の事、隣国リビアでの内戦終結から僅か5ヶ月後のことだった。
「中央政府の腐敗を撃滅し、国をあるべき姿に正す!」
これが反政府勢力の主張だったが、半世紀もの間平和を享受してきたネジマ国民達は困惑を浮かべた。
「別に、今の生活でも不自由ないんだけど……」
そういった世論の背景には、ネジマ国の経済がアフリカ諸国の中で抜きんでて安定していたことがある。
ネジマ国は石油の産出量こそ周辺国にくらべ少なかったが、その代わり希少金属資源に恵まれおり、変動しやすい原油価格に国の経済を左右されることが無かったのだ。
そういった半世紀にも渡る安定の結果、確かに中央政府に腐敗はあった。
だが、その腐敗は国民の生活に未だ害を為すほどでもなく、中央政府への不満が世論の中で形勢される気配は一向に無かった。
結果として、この内戦は弱すぎる反政府勢力の敗北という結果を残して早々に終結。
―――するかに見えたが、そうは行かなかった。
国軍の1割にも及ぶ兵員の離反。この程度はさしたる問題ではなかった。
だが、それに続いて国営の鉱産企業であるネジマ・マイナーメタルスが反政府勢力の支持を表明し、保有資産を投入して傭兵を雇い始めたのだ。
国の主力産業を司る、それも国営企業が反政府勢力側に参戦したという事で、ネジマ共和国は混乱に陥った。
そうして、内戦勃発から2ヶ月を経た今日では、反政府勢力は軍を形成して希少金属鉱脈の多い南部を勢力下に置き、予算不足に陥った政府軍を後目に希少金属を支援国に輸出、見返りには政府が得るはずだった外貨を、そして大量の軍需物資を獲得していた。
そんな2012年5月のある日、日本の成田空港にある整備上屋で、旅客機のエンジンにとある部品を付け忘れるという些細な、そして重大なヒューマンエラーが起こった事には誰も気付かなかった。