久方ぶりの戦い方は……
『キンキュウ!! 大至急テントに習合』
日も暮れて松明で照らしながらでは作業にならなくなったので、さて帰るかって所で藤やんからPTチャットが届いた。
習合てなんだよw どうせ戻るつもりだったし、急いで向かうか。
今日一日で作り上げた胸まである壁を乗り越えようと足を掛けると急に力が抜けて、そのまま後ろに倒れ込んでしまう。
わかるのは眼前に広がる満天の夜空。そして視界の端から蛾? がひらひらと飛んでいた。
気持ちわりー
そこからは立ち上がる力も出ず、自分の体力がすり減るのを見続けることしか出来なかった。
下半身がヒヤッとし、眼を開けると資材置き場のテントに立っていた。振り向くと真後ろには復活地点の巨大なキノコ。
「……死に戻りか?」
「おかえりー。ブラウも間に合わなかったか」
「【も】って木蓮もなのか。もしかしてあの蛾が?」
「私だけじゃなくて全員仲良く死に戻りよ」
ありゃ。松明で灯り取りをしたテント内の椅子――俺が丸太を切っただけの物――に全員が座ってこちらを見ている。壁が有れば毛虫は襲ってこれないからと油断しきってたからな。
夜の狩りはほとんどしてこなかったが、まさか空飛んでくるとは想像していなかった。
「この分だと夜の作業は無理か」
「屋根作って建物として認識されるまではその方が良さそうです。ほらここもあんな感じで」
いつのまにかテントの周りに大量の蛾が、本来なら壁があるであろう場所に突進しては弾かれてを繰り返している。
「侵入不可設定ってやつか。しかしうじゃうじゃいるな」
と、ここから木蓮の一言で話が動き出した。それはそうとして、みんな飯食ってるし。俺も食事終わらしちまおう。
「ねえ、久しぶりにアレやらない?」
「あぁ、アレならたしかに安全に倒せますね」
モグモグ 今日はルーが釣ってきた魚のバター焼きか。そういや言語学スキル持ってるけど使い道分かってないんだよな。死にスキル持っててもしかたないし、使えそうなスキル買ってくるか。
「アレじゃわからんのだがドレの事だ」
「ほら初戦闘の時のやつよ」
……あれかっ!
「じゃあいくわよ。【スパイダーネット】」
木蓮がテントから出ると即座に罠魔法を発動、人の頭ほどもある蛾の群の手前に蜘蛛の巣を設置した。いやまだ人が食べてる途中でしょうが!
「んじゃ【挑発】」
藤やんがヘイトを稼ぐ。これで藤やんに襲い掛かる蛾は、その直線上に設置された蜘蛛の糸にかかる。
身動きのとれなくなった敵を各個撃破しつつ罠を周囲に掛けて行けば、狭い一面だけに集中出来る。
「これで戦い方覚えたのよね」
「ゴックン……それより挑発届いてないぞ」
「そんな訳、【挑発】っだめだ、こいつらヘイト無視してやがる」
見ると蛾は相変わらず壁があるであろう場所に突進しつづけてる。虫だけに無視ってか?
ティンと来た
テントに戻り、灯り取りの松明を持ち出す。
「蛾と言えば光だよな。やっぱりか、こいつら火の有る所に向かってくるんだ」
俺の持っている松明に向かおうとして、その手前に設置した蜘蛛の巣に突っ込み身動きとれなくなる。
「じゃあまとめて【ファイヤー】」
ヒメアが竿杖を振るい、糸の先の針が蛾の一匹にかかった瞬間、蜘蛛の巣ごと燃える。
火に特別弱いのか、毒が強い分他が貧弱なのか、魔法の1発で盛大に燃えた後にドロップ素材だけが残されていた。
【素材】 毒鱗粉
経口性神経毒。 dotダメージ(60秒間)
ご丁寧に小袋に入ってる。
「ちと思い付いたんだけど、ブラウは何か使わない材木ないか?」
要らないのだと丸太の上下を切った時の端材か。ほとんど樹皮なので加工も出来なかったんだよな。
藤やんに渡すと、手早く井桁に組んでいく。そして合図と共にヒメアが火魔法で点火。
「へー殺虫灯?」
「当たりだ。今時よく知ってるな」
「田舎育ち舐めないで。うちの周りじゃ未だに現役よ」
焚き火というには燃え盛った火に蛾が次々と飛び込み、ことごとく燃え尽きる。そして火の中にアイテムが積み重なっていく。
アイテムはなぜか燃えない不思議。
流石に経験値は入らなかったが、放置するだけで市場に出回っていないアイテムが溜まっていくいわば自動素材収集システム。
毛虫の素材を発見した時に続き、木蓮の眼がまたもやあやしい光を放ち出した。いやな予感がする。
そして大きく焚いた火がヘイトを集めるのかそこら中からワサワサと蛾の群が押し寄せてきた。
「火は放っておいて大丈夫そうだから、こっちは迎撃するぞ」
接近すれば危険だが、HPの少ない蛾の大群は経験値を稼ぐ絶好のチャンスでしかない。
焚き火の灯りで周囲が見えつつ、ほどほどに離れた場所に位置取り俺たちは戦闘を再開した。
この戦闘では木蓮の罠魔法が大活躍。てか彼女無しではこの量を捌けなかっただろう。蜘蛛の巣に溜まりに溜まった所で魔法や槌で一網打尽。俺と藤やんでは一度には倒せなかったが、火に向かってふらふらと移動する単体を地味に撃破しては積み重なった素材を収穫してを繰り返した。
結果、レベルが5に鞭レベルが3上がった。大抵後衛職が灯りを持つものだし、頭上から群で襲ってくるこいつらに対抗するのは本来難しいはず、レベルの上がり方を見てもかなり格上の敵だったんだろう。
「毒素材でテントの一角が埋まるなるとはな……」
「やっといてなんだけど引くわー」
「ん。木蓮がいちばん弾けてた」
「「「「そうだよな(ね)」」」」
「なによ皆して!」
「木蓮、罠魔法のレベルいくつあがった?」
「……8?」
「んじゃ毒鱗粉は錬金術素材だろうから俺預かりでいいか? っても使いきれる訳がないからそのまま市場に流すか、なにが出来るか調べてから流すかだが。ちなみに俺なら流す」
「なんで? 独占できれば丸儲けじゃない」
「たしかに独占できれば旨いんだけど、そこまでうまくいくかってのがあってな」
たしかに藤やんが言う通り微妙なんだよな。毒鱗粉は恐らくは毒消しか毒薬にはなるんだろうが、このゲームだと想像もしてなかった活用法が発見されてもおかしくない。
独占して少数の頭の中でだけで使い道を決めてしまえば価値が上がらない。
今回で言えば、毒薬に加工出来たとする。
ステータス異常になるアイテムは市場に出回っていないし消耗品で有る程度の数は売れるだろう。しかし毒薬を使って倒した敵の素材を考えて利益が出る値段でなければ売れない。
これが武具や料理にも利用できる素材だとなれば価値は跳ね上がる。この場所もすでに一部のプレイヤーに伝えてあるのでそもそも独占するのは不可能って話もあるんだがな。
「私なら今の在庫は全て流してしまうかしらね。全プレイヤーが未知の素材に手を出す訳じゃないでしょうし実験する程度には流通するでしょ」
「それだとこっちの手持ちが無くなるぞ?」
「今ある分を希少価格で売りきって、今から更に集めればいいでしょ」
やっぱり木蓮は暗黒面に飲まれてしまっていた。
「もう眠い」
「あら、そういえばもう11時過ぎてるのね。ログアウトまで丸一日あるしもう寝て……明日の夜にもう一度素材狩りしましょ」




