飛べぬ鳥
ばしゃ
冷たい。
顔をあげればさして優越感ももってない、君の顔。
おいおい。
せめて感情を魅せてくれよ。
その周りに群がる名前も覚えていない醜い顔のクラスメート達。
姦しい。
いや、そうじゃないのか。
主犯である、君だけが美しいのか。
何故君だけは美しい。
始まりは高校二年生にあがった4月当初。
私の肩が君の肩に触れた。
ただそれだけだった。
次の日の朝には私の机には白い布に菊が美しく飾られていた。
くすくすと嗤うクラスメートを通り抜け私は椅子に座った。
美しい菊を愛でるように花瓶ごと教室の後ろの棚にそっと置いた。
それが完全に逆鱗に触れた瞬間だったのだろう。
だがそれは彼女のではなく、彼女を取り巻く者達の。
事実、不意に君の顔を見たとき
君は
慈しむように笑っていた。
そして今日日に至るまで私は君や君の周りの者から手酷いいじめを受けている。
だが、私はそんなもの苦痛ではない。
「大丈夫か?白鷺」
「ええ」
「腕は」
「痛むけど動きます」
「そうか、それはよかった。
帰ろうか」
「はい」
何故なら君は私を愛しているから。
拷問のようなリンチが終われば君は必ずもう一度私のもとへ寄ってくる。
手を取って宝物のように隣を歩かせる。
彼女はあの春の邂逅から既に邪な愛に溺れていた。
君からの愛情表現は狂いすぎている。私が彼女達からいじめを受けていれば誰も私に近付こうとしない。
半年ほど前、私を助けようとした同中だった友人は見事に返り討ちにされた。
それもいじめを受けている私よりひどい目に遭わされている。
いつも彼女は私に直接手を下さない。
だが友人しかり、私に関わったもの達はその自らの手で裁く。
手加減などどこ吹く風である。
私を独占したいという欲が強すぎるのだと言う。
それなら何故君の手で痛めつけてくれないのかと聞けば、君はいつだって悲しそうな顔で「この手は白鷺を愛でるためだけに使いたい」などと宣う。
彼女は私に狂っている。
だが私は彼女を憎悪している。
当たり前だ。
大切な友人を半殺しにされ、私に近付くもの何もかもを蹴散らしてゆく。
更にはあろうことか、愛しているとほざくくせに他人の穢らわしい手で私を壊す。
せめてその目に炎が宿れば。
せめてその手で傷つけてくれれば。
せめてその口で愛していると囁いてくれれば。
なのに何一つとして与えてはくれない君を、私が愛せるはずがないのだ。
「白鷺」
「すまない」
嫌です
「白鷺」
「私を憎んでいるだろう」
いいえ、憎悪しています。
「白鷺」
「望むものは何だ」
君ではありません。
「白鷺」
「こっちを向いてくれ」
嫌です
「白鷺」
「泣かないでおくれ」
私を愛しているなら
その目でその手で私を殺せ。
私を愛しているなら
その口で
愛を謡え。
私を
私を
愛しているのなら
ほとり。
「白鷺」
「キスをして、ほとり」
「白鷺」
君が憎い。