雨谷 太一 (あまがい たいち)
6月24日 快晴
今日、初めてこの街、那倉町へとやってきた。
この街には不思議な話が多々有る。
「とある神社で写真を撮ると不思議なものが映り込む」や、「自殺者の多発する廃ビルが30年以上取り壊されず未だ建ち続けている」等、ありがちな都市伝説などがほとんどだが、中には実際にどうしても説明のつかない、というか、普通ならありえないようなことも存在している。
私は、そういったことを調べまとめて、ネット上の自分のブログに載せることを趣味としている。
やはり世の中にはそういったものが好きな人も多く、このブログは中々の人気がある。
今日は、この街のそういった都市伝説の中でも1番、他の街では確実にありえないと思われる話を調査しに行く。
それは、「この街の人口は100年以上1人も増えたり減ったりしていない」といったものである。
つまり、この街で生まれてくる子供の数と同数の人間がこの街からいなくなっていくのだ。 一人転居してくれば一人転居していく、一人子供が生まれれば一人誰かが死ぬ、というように。
この話が事実かどうか確認するために、まずは図書館へと向かった。
そこで、「那倉町の歴史」という本を見る。これには、市役所か何かの資料や、3年ごとの街の航空写真などが、かなり古い時代の分から載っていた。人口の資料は、嬉しいことに72年前からの分が戦時中の分は少々抜けているものの生まれた人の数と死んだ人の数の分まできっちり載っていた。
例として、1年前、10年前、30年前、60年前の分を書いてみよう。
・1年前‐人口・4万3567人 出生者数・3628人 死亡者数・3626人
・10年前‐人口・4万3567人 出生者数・2760人 死亡者数・2764人
・30年前‐人口・4万3567人 出生者数・2812人 死亡者数・2812人
・60年前‐人口・4万3567人 出生者数・4105人 死亡者数・4100人
確かに、出生者と死亡者の数に若干の誤差はあるものの、人口はここに乗っている限り1人も変わっていない。これは異常だと思う。
原因は載っていなかったので、次は街の人に直接訪ねてみることにした。
・一人目‐30代女性会社員 知らないようだ。
・二人目‐50代男性教師 最近自殺や殺人による死者も多いらしい。
・三人目‐40代女性主婦 10年ほど前から現れた宗教の人間がそういったことを言っていたそうだ。ただ怪しいから近づかない方が良いと言われた。
・四・五人目‐高校生男子2名 詳しくは知らないがそういうことについての本がとても多い古本屋の場所を知っている、ということで教えてもらった。店主もそういった話には詳しいから聞いてみてはどうだろうか、だそうだ。
・六人目‐20代男性大学生 知らないがとりあえず夜中まで外で調べまわらない方が良い、だそうだ。理由を聞いたら最近夜通り魔殺人が多発しているからといわれた。最近といっても7年は前からの事らしい。物騒だ。
・七人目‐20代女性アルバイト 最近娘が生まれたものの友人の母親が事故死してしまったそうだ。事故や病気もなかなかに多いらしい。
もうこれ以上続けても収穫はなさそうなので、四・五人目の言っていた古本屋に行ってみることにした。「山月堂」というらしい。
古いものの大きな店舗だ。店主は若そうな女性だった。しかし、高校生でもこのようなところに行くものなのか。
ここからはセリフの再現を書く。二重かっこになっている方が私だ。
「いらっしゃい」
『こんにちは。すいません、この街の不思議…を取り扱った本とかありませんか?』
「あるよ、それはもうたくさん。不思議って、どんな不思議かな?」
『ああ、えー…、人口が変化しない…とか言った感じの』
「それなら私も覚えているよ。直接話そうか?」
『あ、ハイ、お願いします。 お若いのにすごいですね』
「あはは、若いって!君より歳喰ってるよ。20後半くらいだろう?君」
『…そう、ですけど…。失礼ですが、おいくつですか?」
「40は超えてると言っておこう。で、この街の人数の話だったね?」
『、はい。 何故ずっと同じ数なんでしょう? 半端だし』
「半端なのは知らないけど、同じ数なのは、呪いみたいなものだよ」
『呪い…?またオカルトな…』
「だってそうでもないと説明つかないじゃないか。なめてかかってると君も殺されるかもしれないよ?実際死者はいるんだ。」
『…すいません。…そういえばここに来るまでに聞いたんですが、自殺や殺人なんかもその呪い、に関係あるんでしょうか?』
「そうだねェ…。君は、この街で起こってる連続通り魔殺人の話は知っているかい?」
『ああ、ハイ。ニュースでやってますね。それがなんでしょうか?』
「彼は、いうなれば人数合わせの役割なんだよ。彼が殺すから人が増えない。さすがに1人じゃないけどね」
『…それは…。1人じゃないというのは?』
「最低でも彼を含めて3人はいたかな…。最近できた『染光会』ってのにも1人いたかな?」
『何故そんなことを知っておられるのでしょうか…』
「うん。当然の疑問だ。私はね、そういうことが本当に大好きなんだよ。それで調べまくってたら嬉しいことにさらにすごい人に直接教えてもらえる機会ができたんだ。このこともその人に聞いたよ。その人にはそれ以来あえてないけどね」
『そうなんですか。いろいろ教えてくださり有難うございました。では』
「まあまあ、外は雨だ。ゆっくりしていきなよ」
『え?さっきまで晴れてた…、うわ』
「あはは、ホント天気って変わりやすいよね。まあ日暮れまでには止むだろう。危険だけど。なんなら泊まってくかい?」
『え、いや、それは…』
「冗談だよ。素直だねえ。いい子いい子」
ここら辺で無益な会話でしかなくなってくるので割愛。 …なぜ結局泊まることになってしまったのだろうか。
とりあえず、店主から聞いた話では、人口の変化がないのは呪いで、その呪いを実行してる人が3人はいる。だからずっとつかまってないのだろうか。呪いの原因は200年以上前に遡るらしく、さすがに店主さんでも知らないようだ。実行者はその時代ごとに何人かずついるらしく、誰かが実行不可になったら次の人へとバトンタッチするそうだ。『染光会』という宗教団体はその呪いを作ったらしい『箱神』をご神体として祀っているそうだ。ただ詐欺的面も強いらしいから近づくなと言われた。そう騙されもしないと思うのだが…。
とりあえず、分かったことはこれで全てだ。引き続きこの那倉町の不思議を探求していこうと思う。
ご観覧有難うございました。
副題は「探求趣味」です。