ヌヴェル05 蝶々は銀杏の葉で
掲載日:2026/08/23
「銀杏の葉で、蝶々が作れるんだよ」
沙織は、葉柄の長い銀杏の葉を拾うと葉を折ったり葉柄を曲げたりして器用に蝶々の形を作った。
「最後に、この葉柄を綺麗に割くと・・・ほら、蝶々」
銀杏の葉が羽根、葉柄が触覚のモンキチョウが出来上がった。
沙織は、そんな蝶々を五つ六つ作ると、銀杏の落葉の溜まり場にそっと置きながら、こう言った。
「明日、病院に辞表を出すの」
沙織は、××病院の小児科医。故郷で小児科医をしている親父さんから帰ってきて町の人々のために働いてくれと言われていた。親父さんの体調がすぐれなくなってきて、最近は頻繁にメールが来ていたらしい。
「そうか、寂しくなるな」
そう告げるのがやっとだった。それ以上告げると嗚咽になって言葉にならなくなるように感じた。
そのとき、一陣の風が吹いた。
モンキチョウが飛んだ。確かに、羽根をひらひらさせながら飛んだように見えた。
「蝶々、飛んだね」
振り返ると、笑顔の沙織がいた。
その目元が、うっすらと濡れているように見えた。




