表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

おひさまを食べる

作者: 露(つゆ)
掲載日:2026/06/21

 幼い頃の思い出。

「これは『おひさま』なんだ!」

 俺は目玉焼きを指して二歳下の妹、玉(たま)にそう言う。

「おひさま?」

「そう! おひさまを食べればなんだってできる! 強くなれるんだ! だから玉もおひさまを食べるんだ!」

「うん!」

 可愛い妹は俺の言葉を素直に信じる。


「兄ちゃん、ほら、今日はおひさまだ。強くなれるね」

「……そうだな」

 幼い頃なら微笑ましい光景。けれど中学生にもなって真面目に『目玉焼きおひさま信仰』をしているのは少々心配だ。

 だが、玉が元気に過ごせているならそれでいいか。淡々としていて少し変わっているが、優しい玉が俺は好きだ。


 大学の受験シーズンになって俺は夜遅くまで勉強する日が続いた。

 そんな日は決まって夜食を食べる。ダイニングに行くと、テーブルの上にベーコンエッグが置いてある。かけられたラップの上には紙が乗せられている。

『おひさまを食べて大学合格!』

 玉の字だ。玉は毎日俺の為にベーコンエッグを作ってくれている。

 俺はくすりと笑う。本当に優しい子に育ってくれた。

 だが……。


「空(そら)……大丈夫よ……。一回落ちたからってそんなに落ち込まなくても……」

「死んだりなんかしない。だから出てきなさい」

「うるさい!! 放っといてくれ!!」

 俺は自室の扉に枕を投げつける。父さんと母さんは無言で去っていった。

 俺は受験に失敗した。あんなに頑張ったのに全部無駄だった。

 それから俺は自暴自棄になって部屋に引きこもった。

 コンコン。

 ノックの音がする。

「兄ちゃん」

 玉の声だ。

「あのね、おひさま持ってきたよ。これを食べればなんだって……」

 俺はお決まりの言葉を吐く玉に苛立ち、声を荒げた。

「何がおひさまだよ!! 現実見ろよ!! 高校生にもなってバッカじゃねえの!? おひさま食べて受験はどうなった!? お前のごっこ遊びに二度と巻き込むな!!」

 少しの間の後、玉は言った。

「……ごめんね」

 それから玉が去っていく足音が聞こえた。

 俺は体育座りの膝に頭を埋める。わかってる。父さんも母さんも玉も俺を元気づけようとしてくれてるだけだ。なのに俺は子供みたいに駄々をこねて。挙げ句、俺が教えた事をずっと純粋に信じている玉に酷い事を言って……。

 俺はベッドから立ち上がり、そっと扉を開けた。誰もいない。

 ふと、扉の横に置いてある物が目に入った。ラップがかけてあるベーコンエッグ。上には紙が乗せられている。

『おひさまを食べて強くなろう!』

 涙が溢れてきた。

 俺は泣きながらベーコンエッグ……おひさまを食べた。


 次の日、俺は家族の集まるリビングで土下座した。

「今まで八つ当たりしてごめん。俺、バイトしながら浪人するからもう一度チャンスをください」

 やや経って、父さんが言う。

「空、顔を上げなさい」

 言われた通りにすると、そこには優しい顔をしたみんながいた。

「強く、なったな」

 父さんは俺の肩に手を置く。

「もちろん、父さんは空の頑張りを尊重する」

「父さん……」

「今日の晩ごはんは何が良いかしら」

 母さんはウキウキで話す。

「ベーコンエッグがいい」

 俺は玉を見る。

「兄ちゃん、おひさま食べて強くなるから」

 そう言うと玉は満面の笑みで言った。

「うん!」


 これからも俺達兄妹はおひさまを食べ続ける。なんだってできる。そんな気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ