過ぎ去る雨
掲載日:2026/04/25
下校時のバス停は混雑する。
「こっち入れよ」
彼はぶっきらぼうに傘を寄せた。
昔なら、何も意識せずにその隣へ入れた。
それだけのことなのに……できない。
「ほら。肩が濡れてるじゃないか」
肩が触れ合う距離まで近づく。
触れた瞬間、呼吸が浅くなる。
周囲の声が遠のき、傘の内側だけが隔離された世界みたいだった。
――気づかなければよかった。
そう思うのに、もう少しこのままでいたいとも思ってしまう。
俯く。
雨は優しく傘を叩き、ふたりの沈黙を隠してくれていた。
「寒くないか?」
「べ……別に……」
そう答えるのが精いっぱいで、顔を背けた。
その仕草に、彼が何か言いかけて飲み込む気配がする。
空が少しずつ明るくなっていく。
やがて、雨は止んだ。
さっきまで隣にあったはずの温度が、少しずつ遠ざかっていく。
——やまなければよかったのに。




