想われている誰かが羨ましくて
放課後。
川上 唯に『部活が休みだから』という選抜でショッピングモールへと連れられていた。
平日とはいえ、駅前のショッピングモールの人混み具合は大したもので。雑貨屋でラッピングコーナーを物色している川上を置いて、店内を適当にぶらついていると肩を叩かれる。
「なぁ、どっちがいいと思う?」
両手に、それぞれ赤と青のラッピング素材。赤は少し透明なビニール素材で、青は布寄りの素材。
そんな二つの選択肢を見せつけれら、俺は素直な感想を述べる。
「どっちでもいいんじゃないか?」
そんな俺の回答を聞いて考え込む川上。その姿を見て「そもそも人選ミスだと思うぞ」なんて言葉が浮かぶ。
ショッピングモールの装飾を見て、俺だって嫌でも思い出す。明日はバレンタイン。
つまり、川上も誰かにチョコをプレゼントするのだろう。今日はそのための材料集め、というわけだ。そして、男子の意見が欲しいから暇そうにしていた俺に白羽の矢が立ったのだろう。
そんなレベルの低い推理をしながら、ラッピングコーナーを前に佇む川上の後ろに立つ。
「チョコって、誰にあげるんだ?」
同じ陸上部として、そして二年から同じクラスとなった川上。男女共に満遍なく友人がいて、誰とでも仲が良いイメージ。しかし、特段仲が良いという異性も逆に思いつかない。
義理バレンタインだろうか、とも思ったが。ラッピング一つに悩み続ける姿を見ると、川上の本気具合が伺える。
「……川上?」
どうやら俺の声すら聞こえていないようだ。
これはお手上げ、とその場を後にしようと背を向けた瞬間「よし!」という川上の声で思わず俺も声を上げる。
「なんだ。いたのか」
「急に声を上げるなよ……決まったのか?」
「あぁ!」
満足そうな表情で買い物カゴを見せつけてくる。黄色いラッピングや、チョコを入れるであろう箱などが入ったカゴ。
女子らしさが詰め込まれたカゴを見て、川上も女子なんだな──なんて失礼な感想を抱きながら、川上の手からカゴをひょいと取り上げる。
「お、おい──」
「会計、でいんだろ?」
「あ、あぁ」
川上の返事を待って、レジへと向かう。
後ろから聞こえる川上の足音を聞きながら『こんなに一生懸命選んだんだから成功して欲しい』とお節介ながら思ってしまう。
結局誰に渡すのか。これが義理なのか本命なのか──いや、あれほど真剣に選んでいたんだ。本命なんだろう。
レジの順番が回り、会計を済ませていく川上。商品を店員から渡され、嬉しそうに受け取る姿を横から眺めていると羨ましさが込み上げてくる。
川上にこれほど想われ、そして明日チョコを受け取る。こんなふうに、誰かに真剣になってもらえる。その事実が、どうしようもなく羨ましかった
そして、明日から、帰り道は一人になるのかもしれない。そんな想像をしてしまった自分が、少しだけ情けなかった。
「川上。明日、頑張れよ」
「なんだ、急に」
どこか物悲しさを抱きながら、俺はその日、川上と別れた。
* * *
「昨日は助かった」
翌日。
朝の教室で、その言葉と共に“黄色いラッピング”で包まれたチョコを渡された。
「……あ。二つ買ってたのか」
そう一人で納得しながら、ありがたく受け取る。
開けていいか?と聞くと、川上には珍しく、どこか緊張した表情をして頷く。
こういう紐の結び方って何で女子は知ってるんだろ、なんて心の中で思いながら、綺麗にラッピングされたチョコを開けていく。
昨日、カゴのなかに入っていたケースが現れる。そして、ケースを開けると“ハート”型のチョコが顔を表す。
口が開いたまま閉じない。目の前のハートが、現実味を持たない。
朝の少し鈍い思考で、何とか言葉を探す。
「昨日、どうして俺を連れて買い出しに?」
「どんなのが好きか、分からなったからな」
さも当然かのように答える川上。
こういうのは、密かに計画を立て──と言ったものではないのだろうか。俺がおかしいのか?
混乱する感情を押し殺し、肝心なことを川上に尋ねる。
「……このチョコ、本命?」
こんな質問をする日が来ることがこようとは。そんなアホらしい感想を抱く。
すぐに返ってこない返事。不思議に思い、チョコから視線を上げる。そこには、手で顔を覆っている川上がいた。
「か、川上さん?」
「義理で“ハート”型なんて作るか、ばか」
「そ、そうだよな」
無神経に、本人の目の前で開けてしまったチョコを丁寧にしまう。
俺は顔を覆ってしまっている、川上の手へと腕を伸ばす。まずは感謝を言いたくて──あんなに真剣に想ってくれてありがとう、と。
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