2.本当にこのままでいいの?
その後、母と和也さんは正式に結婚し、新しい生活が始まった。
結婚を機に二人はマンションを引っ越し、4人でも快適に暮らせる広さの部屋を借りた。
間取りは、玄関からまっすぐ進むと大きなリビングがあり、左手には広い部屋がひとつ。反対側には小さな部屋がふたつ並んでいる。
「よーし、早速部屋決めしようか!」
和也さんが元気よく声を上げる。
部屋決めと言っても、間取りを見ればだいたい想像はつく。
「父さんと母さんはこの大きな部屋を使うから、あとは二人でどっちにするか決めてね」
そう言うと、二人は笑顔で大きな部屋へ消えていった。
(まあ、夫婦が同じ部屋を使うのは当然だよな…)
「わかった…」
僕は届いたか分からない返事を呟き、残された愛菜と話し合いをする事になった。
「どっちの部屋がいい?」
僕はそう尋ねる。
「どっちでもいいわよ」
愛菜はさらりと答える。
「……どっちでもいいって言われると、一番困るんだけどな」
僕は小さく呟いた。声がかすれてしまった。
間取りは左右対称で、どちらを選んでも大差はない。おそらく愛菜も同じことを考えているだろう。
「……じゃあ、僕はこっちにするよ」
右側の部屋を指さして、僕は決めた。
「じゃあ私はこっちね」
愛菜はすっと左側の部屋へ向かう。
⸻
引っ越し作業を終え、疲れた体を癒すためにお風呂に入った。
湯船に浸かりながら、僕は考え込む。
(愛菜のやつ、なんであんなに冷たいんだろう……)
この関係のまま一緒に暮らすのは無理だ。
何より、僕と愛菜がうまくいっていないことで、両親に心配をかけたくない。
そう思い、僕は心の中で決意した。
「愛菜との関係を、ちゃんと改善しよう」
⸻
翌日。
両親は仕事で不在。僕たちは春休みで家にいる。
朝ごはんのために部屋を出ると、リビングで愛菜が食器を洗っていた。
正直、すごく気まずい。
けれど、このままでは何も変わらない。
「お……おはよう。よく眠れた?」
思わず声が震える。
「おはようございます」
返事はあったものの、そっけない。
(まあ、無視されるよりはましか……)
勇気を出して、思い切って話しかける。
「大切な話があるんだけど……ちょっといい?」
「……なんですか?」
「その……愛菜、僕に冷たくない?
もし、何か事情があるなら、話してほしい。
同じ家で暮らしていくんだから、険悪ムードより、居心地のいい空間にしたいし……
それに、何よりお母さんとお父さんに心配かけたくないんだ」
言葉に詰まりながらも、今の気持ちを全部ぶつける。
「……」
愛菜はしばらく言葉に詰まり少し目が泳いでいる。
「それは……あんまり気にしないでほしいわ」
驚きと困惑が混ざった表情を浮かべ、愛菜は答えた。
「ごめんなさいね」
そう言うと、洗い終えた皿を片付け、部屋へ戻ってしまった。
リビングに取り残された僕は、どう返せばいいのか分からず、ただ愛菜の後ろ姿を見送るしかなかった。
(このままでいいのかな……)
⸻
少し前、再婚した父と新しい家族の家に挨拶に行ったことを思い出す。
父から、同年代の男の子がいると聞いていたけれど、見た目は全く分からなかった。
インターホンを押すと、奥から「はーい!」と女性の声が聞こえた。
そして足音が近づき、ドアが開いた。
「和也さんと、こちらは愛菜ちゃんかな? こんにちは、千歳葉子です」
にこやかな笑顔で挨拶してくれた。初対面でも、すぐにいい人だと分かった。
「こんにちは、名取愛菜と申します」
私も笑顔で返す。
その会話を聞いていると、奥からもう一人の足音。
「こんにちは、千歳湊です」
自己紹介するその男の子を見た瞬間、心臓がドクン、と跳ねた。
訳もなくドキドキして、何を言ったか覚えていない。
そう、私は一目惚れしてしまったのだ。
中身を見ずに男の子が苦手になったのに、結局、自分も外見だけで意識してしまう――皮肉な話だ。
そしてその後湊から冷たくする理由を聞かれた時、答え方が分からず、誤魔化してしまった。
(しばらくは「男の子が苦手」と言ってごまかそう……)
「一目惚れしたなんて、絶対言えない……」
小さく呟き、眠りについた。




