2.本当にこのままでいいの?
その後、母と和也さんは正式に結婚し、同居生活が始まった。
母と和也さんは結婚を機に新しいマンションへ引っ越すことを決意し、4人でも不自由なく暮らせる大きさの部屋を借りた。間取りは玄関から真っ直ぐ行くと大きなリビングがあり左側に大きな部屋がひとつ、その反対には小さな部屋がふたつある。
「早速部屋決めをしよう!」
と和也さんが楽しそうに言った。部屋決めと言っても何となく間取りから察しはつく。
「父さんと母さんはこの大きな部屋を2人で使うから、2人はあのふたつの部屋のどっちを使うのか決めてね!」と言い大きな部屋の中へと入って行った。
新婚の夫婦が同じ部屋を使うことはおかしなことではなく、むしろ当たり前だと思う。
「わかった」
と届いたか分からない返事をして、取り残された僕たちはどちらの部屋を使うか決めるための話し合いをした。
「どっちの部屋がいい?」
「どっちでもいいわよ」
即答だった。
「どっちでもいいが1番困るんだけどな…」と小さな声で呟く。とはいえ間取りも同じなのでどちらを選んでも変わりはないのは事実である。おそらく義妹も同じことを思っているだろう。これ以上無駄な話し合いをしたくなかったので
「じゃあ僕はこっちの部屋にするよ」と右側の部屋を指で刺してそう言った。
「じゃあ私はこっちね」と言い義妹は自分の部屋となった場所へ歩いていった。
ひと通りの引越し作業を終え、疲れた体を癒すためにお風呂に入りながらある考え事をしていた。
「愛菜のやつ、何であんなに冷たいのかな…」
この関係のまま一緒に暮らしていくのは到底無理だと思う、なにより僕と愛菜が上手くいってないのが原因で両親に心配をかけるのだけは絶対に避けたい。
そういう思いから愛菜との関係を改善することを決意した。
翌日
両親は仕事で家にはいないが学生の俺たちは春休みということもあり2人とも家にいる。この話をするにはいい機会だろう。
朝ご飯を食べようと思い部屋から出てリビングの方へ向かうとそこには食器を洗っている愛菜がいた。正直とても気まずいがこのままだと前には進めないので声をかけた。
「お…おはよう、よく眠れたか?」と恐る恐る声をかけた。
「おはようございます」
返事は返ってきたもののそっけない感じである。
(まぁ無視されるよりはましか…)
そう思いいつも覚悟を決めて話すことにした。
「大切な話があるんだけどちょっといいか?」
「なんですか?」
「愛菜って…その…僕に冷たくない…?何か事情があるなら話して欲しいな、やっぱり同じ家で暮らしていくからに険悪ムードよりもっと居心地のいい空間の方がいいと思うし、何よりお母さんとお父さんに心配かけたくないんだ」
今の心の中の全てを吐き出した。
「…」
こんな事を急に言われて驚いたのか、愛菜は言葉に詰まっているようだった。
「それは…あんまり気にしないでほしいわ」と驚きと困惑が入れ混じった表情を浮かべて愛菜は言った。
「悪かったわね」と言いながら綺麗になった皿を片付け部屋に引っ込んでしまった。
リビングに1人取り残された僕はどう返事をすれば良いのか分からなかったので愛菜の後ろ姿を見ていることしか出来なかった。
(このままでいいのかな…?)
少し前の話だが、再婚した父と新たに家族になる人のお家へ挨拶に行った。同年代の男の子がいる事は父から聞かされていたが見た目などは全く分からない。ドアのインターホンを押し奥から「はーい!」と女性の声が聞こえて足音も聞こえてきた。ガチャリとドアが開き中から女性が出てきた。
「和也さんと、こちらは愛菜ちゃんかな?こんにちは千歳葉子です。」と綺麗な笑顔で挨拶をしてくれた。完全に初対面だがいい人であるという事はすぐにわかった。
「こんにちは、名取愛菜と申します」と私も笑顔で挨拶を返した。
葉子さんと父の会話を黙って聞いていたら奥からもう1人の足音が聞こえた。奥から同年代くらいの男の子が歩いてきて、
「こんにちは、千歳湊です」と自己紹介をしてくれた。その瞬間私はなぜが心臓がドキッとした。自分でも訳がわからなくなり咄嗟に返事をしたがどんな事を言ったのか、あまり覚えていない。そう、私は一目惚れをしてしまったのである。中身を見てくれないという理由で男の子が苦手になったのに、結局自分も中身を見ずに外見だけで意識してしまうようになってしまった。これはとんでもない皮肉だと思い
「私もあの男の子たちと同じなのね」
と自分を心の中で嘲笑った。
湊さんから冷たくする理由を聞かれた時はなんて答えればいいのか分からなくなり、質問を受け流すかのように誤魔化し部屋へと戻った。しばらくは男の子が苦手と言って誤魔化そう。
「一目惚れしたなんて言える訳ないじゃない…」と小さな声で呟き、そのまま眠りについてしまった。