表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

擬人化シリーズ

蜂の王子、最後の蜜

作者: 澄鳴

蜂の精と人間の娘

森の奥深く、巨大な蜂の巣に住む「蜂の王子」ハチオは、数多くの姉たちに囲まれて育った。彼は蜂の精霊で、金色の瞳と羽根のようなマントを持ち、甘い蜜のような笑顔で誰をも魅了した。


ハチオの姉たちは巣の運営や蜜集めに忙しく、彼を過保護に可愛がる一方、


「お前は特別な使命を持つ」


と繰り返した。その使命とは、運命の相手と結ばれ、子孫を残すこと。

ただし、雄蜂の宿命として、交尾の後に彼の性器は爆発し、命を落とすのだ。


ある日、ハチオは森の湖畔に住む人間の娘、リナと出会う。

リナは素朴で心優しい女性で、野花を摘みながら歌う姿にハチオは心を奪われた。

リナもまた、ハチオの不思議な魅力と純粋さに惹かれ、二人は湖畔で語り合う時間を重ねる。

ハチオはリナに蜂の姿を隠し、ただの旅人として振る舞ったが、姉たちには「人間と関わるな」と厳しく禁じられていた。


「ハチオ、お前は毎夜どこに出かけているのか?」


姉の一人、女王候補のミツバが鋭く問う。


「人間は我々を理解しない。使命を忘れるなよ。」


ハチオは笑ってごまかすが、心はリナでいっぱいだった。


リナとの時間は、使命や宿命を忘れさせるほど幸福だった。

リナもハチオに惹かれ、ある夜、湖畔で彼に告白する。


「ハチオ、貴方がどこから来たのか知らないけど…あなたと一緒にいたい。」


ハチオの胸は喜びで震えたが、同時に恐怖が押し寄せた。愛を交わせば死が待っている。

姉たちの言葉が脳裏をよぎる。


「――お前は巣のために生きるのだ。」


だが、リナの澄んだ瞳を見ると、そんな使命は色褪せる。

彼は決意し、リナに真実を告げる。


「リナ、俺は蜂の王子だ。もし君と愛を交わしたら、俺は死ぬ。でも…君を愛してる。」


リナは衝撃を受け、涙を流しながらハチオを抱きしめた。


「そんな運命、受け入れられない! あなたを失いたくない!」


二人は悩み抜いたが、ハチオは言う。


「君と過ごした時間が、俺の人生そのものだ。一瞬でも君と一つになりたい。」


リナは彼の覚悟を受け入れ、愛を貫くことを選んだ。

満月の夜、二人は湖畔の花畑で愛を交わした。

精を解き放つその瞬間、ハチオの身体は光に包まれ、激しい爆発音とともに彼の命は散った。リナは泣き崩れ、ハチオの最後の言葉を胸に刻む。


「君は私の花、そして、私は君の最後の蜜だった――」




新たな女王の誕生

ハチオがリナとの愛を貫き、命を散らしたその頃、ハチオの姉であり、女王候補の筆頭であるミツバは、鋭い金色の瞳と冷徹な決意を胸に、巣立ちの時を迎えた。


女王となるため、ミツバは交尾飛行の儀式に臨む。彼女は森の空を舞い、強烈なフェロモンを放ちながら、近隣の巣から集まった数百の雄蜂を引き寄せた。ミツバは無慈悲なまでに優れた雄蜂を選び、交尾を重ねる。

交尾を終えた雄蜂は次々と性器の爆発とともに墜ち、ミツバの心には一瞬の哀れみも浮かばない。「巣のために、犠牲は必然」と彼女は自らを戒めた。数時間の過酷な飛行を終え、ミツバは数十匹の雄蜂の精子を体内に蓄え、女王としての力を確かなものとした。


森はミツバの巣に支配され、リナの存在は忘れ去られた。

ミツバは女王として君臨し、蜂の誇りを守り抜いた――たとえその心が、愛を知るハチオの記憶にわずかに揺らぐ瞬間があったとしても。




おわり

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ