英雄の本性
何が目的で話しかけてきたのか分からない。関わらないのがいいだろう。すすっと隣の棚に移動した。
しばらくうろうろしていたら、お菓子の本を見つけた。会計をしようと思うもお金がない。
お金を作りだそうと考えたが、実際にはしなかった。それが出来れば、この世界では大金持ちになれるのかもしれないが。それは私の幸せではない。
仕方ないが、お金の調達をした後にこのよう本を買いに来るとしよう。それに、この場所を離れたかった。
急ぎ足で家に戻ると、ゼノが我が物顔で椅子に座っていた。テーブルにはいつものように食料の入ったカゴ。そんなことに、もう驚かなくなってきた。
ゼノが毎日のように訪問することに慣れた頃、ノックをする音が聞こえた。
「開いてるよ」
いつもなら勝手にドアを開けて入ってくるのに。今日はどうしたのだろう。なかなか入ってこない。
両手が塞がって、足でドアを蹴っているのかもしれない。いったいどれ程の荷物を抱えているのか。
食料を持ってきてくれるのはありがたいのだが、なかなか使い切れない。
一度断ろうとしたのだが、あまりにも悲しい顔をするので言えなかった。
「ゼノくん、食料のことなんだけど」
「なんだ、足りねえか?」
「いや、違くて。こんなに食べきれないなって思って」
「そうなのか?」
彼は自分の食べる量が普通だと思っているらしい。私もよく食べる方だが、ゼノには及ばない。
「迷惑だったか?」
しゅんとした顔はまるで子猫のよう。耳があったら、ぺたっとなっていたに違いない。彼に猫耳が生えてなくてよかった。そんなの可愛いの暴力に倒れてしまうだろう。
「ぜんっぜん、迷惑じゃないよ。むしろ足りないくらい!」
なんて言ってしまったものだから、カゴ半分だった量が増えて、2カゴ満タンの量になっていた。
また沢山の食材を持って来てくれたのだろう。扉を開けるとそこには、ゼノとはほど遠い男が立っていた。
「なんでここに」
「君に会いたくてね」
「仕返しでもしにきたの?」
「いや、そんなわけないじゃないか」
それならいったい何をしに来たのだろうか。それに、どうしてここの場所が分かったのか。
「もしかして変な人?」
「そ、そんな訳ないだろ」
変な人だという自覚があるのだろうか。少し動揺したが、すぐに冷静さを取り戻し懐から本を取り出す。
「これを君に贈りたくてね」
それは、数日前に本屋で見ていたレシピ本。何故私が欲しかったものを知っているのか。
そうか。あの時声をかけてきたフードの男はアインだったのか。
「やっぱり変な人だ」
「断じて違うからな」
疑いの目を向けると、咳払いし逃げるように去って行った。
それからアインは、よく私に会いに来た。ゼノと鉢合わせるのは嫌なようで、彼がいるときには姿を現さない。
それもそうだ。彼らは互いに命の削り合いをしたのだから。私もその一員になるのだが。そのことを忘れたのか、のんきに声をかけてくる。
「やあ、元気かい?」
「元気ですよ」
「それなよかった」
悪い人ではないことは分かっている。元々国の為に戦ってきた人。国民から慕われている人。それに、私の健康を気遣ってくれる。だから疑ってはいないのだが、ゼノとの時間を奪わないでもらいたい。