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美しき都

 久しぶりにお菓子を作ってみよう。そう思い立ったが、材料が揃っていても、レシピの本が無い。街に行けば何か売ってあるだろうか。散策ついでに街に行ってみよう。

 氷河の都は美しい街並みが広がっている。色とりどりの家の屋根に雪が積もっていないのは、1年のうち3ヶ月だけだ。

 本来なら王が住む城だけが常に氷で覆われている。国同士の均衡が崩れてからは、数日を除いて雪の日になっているらしい。けれど、太陽の光に照らされきらきらと輝いている景色は美しい。

 

 あの王子はどうしているだろう。敵を逃がしてしまったことで、罰せられていなければいいが。 

 そうなれば私のせいなのだが、あの悲しい未来を見過ごすことは出来なかった。何度あの場面に戻ろうとも、私の心は変わらない。

 ゼノが生きてくれるのなら。ゼノが笑ってくれるのなら、他人を不幸にすることを厭わない。


 酷い人間だと言われても構わない。誰かを幸せにするためには、そのくらいの覚悟がなければ出来ないだろう。他人を不幸にした罪を抱えながら、ゼノを幸せにすることにだけを考えよう。


 そういえば、ゼノはまだ笑ってくれない。作中でも笑みはほとんど見せなかった。あるとすれば、狂気に満ちた笑い顔。それも好きなのだが、やっぱり幸せそうな顔が見たい。

 そんな顔に出来るお菓子は何だろう。考えながら店を見ていると、本屋にたどり着いた。


 小さい店だが、床から天井まで本が詰まっている。ここから探し出すのはなかなか大変だ。店主に声をかけようとしたが、留まった。なにせ私はこの国の王子を負かしたのだ。恨みを買っていてもおかしくない。ひとりで探すことにした。

 

 本屋の匂いはなぜ、こんなにも落ち着くのだろう。分厚い表紙の本は、なんだかロマンを感じる。手に取ると、古いものだったらしくミシミシと音をたてた。そんなところもいい。

 

 見ているだけで、楽しい。いろんな本を開き眺めていると、人の気配を感じた。

「何かお探しかい?」

 フードを深く被った男が声をかけてきた。怪しすぎる。呪われた魔導書を紹介されそうだ。とりあえず聞こえないふりをして離れたが、懲りずに声をかけてくる。

「お手伝いしようか?」 

「……」

「何の本を探しているんだい?」

「……」

 いったいこの怪しい男は何なのだろう。

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