つまみ食い
意気揚々と調理にとりかかるも、緊張のあまり味がよく分からなくなってきた。そして、1番美味しいものを食べてもらいたくて、何度も味見をしていたのが裏目にでた。
見た目は上出来なポテトサラダ。けれど、心なしか塩味がきついような。さっきのひとつまみが余計だったか。
「出来たのか?」
「出来たけど味の調整が」
そう言ってるのに、ゼノは木のスプーンを手に取り未完成のポテトサラダを食べた。
何も言わず黙々と食べているということは、ちょうどよかったのだろうか。少し安心し、サンドイッチ作りに取り掛かった。
なんて幸せな時間なのだろう。おもちゃのように可愛い家で、木のまな板で料理をしている。包丁でとん、とん、ときゅうりを切る音が心地いい。
時計もスマホもない穏やかな時間。上げ下げ窓から暖かい風が吹き、髪を揺らす。窓から見える景色は緑豊かで、心にゆとりを与えてくれる。
白兎がぴょんぴょん跳ね回り、鹿が草を食む。この世界はまるで時間が止まっている。そう思ってしまう程に穏やかだ。
そうだ、私は料理が好きだった。忙しなく流れる時に置いていかれないように、疎かにしていた。
昔は家族に作っていた。みんなのリクエストを聞いては試作し、納得のいくまで練習したものだ。
好きな人に心を込めて作ったものを食べてもらう。そして、「美味しい」なんて笑ってくれたらいくらでも作りたくなる。
お腹も心も満たされる。作る側も、食べる側も。だから、好きだった。
「まだ出来ないのか?」
ゼノが背後から手元をのぞき込む。切ったハムを見つけたようで、手を伸ばす。しかし我慢したのか、ポテトサラダでお腹いっぱいになったのか。その手を止めた。
「ちょっと食べる?」
「いや、いい」
そう言って再び、ポテトサラダを頬張りだした。
ゼノが持って来たジャガイモはかなり多かった。氷河の都はあまり農業が盛んではないが、寒い気候のお陰かジャガイモがよく育つらしい。
大量に、そして安く手に入るジャガイモは、この土地の特産品だ。
とはいえ、ゼノはかなりの量を持ってきた。長期保存はできるが、せっかくなら新しいうちに食べたい。芽が出てきては大変だから。
そうこう考えながら調理していると、完成した。皿に盛り付け、ゼノの前に置く。見栄えは悪くない。卵と、ハムときゅうりのサンドイッチの2種類。紅茶も淹れて一緒に出した。
ゼノはすぐには食べずに、眺めていた。きゅうり嫌いだったっけ。公式ファンブックにはそんなこと書いてなかったはず。
聞いてみるか。いや、今聞いたところで正直に言うわけない。ゼノは案外気遣いが出来る人だから。
私の視線に気付いたのが、サンドイッチを食べ始めた。手に取ったのはハムときゅうりの方。
表情を変えずにもぐもぐしている。これが自分の料理じゃなかったら、癒されていたというのに。
「どうかな?」
「うん」
ゼノからの「美味しい」はまだ、もらえなかった。だが、ここでめげるのはまだ早い。そもそも、彼は素直な性格ではない。だが、その言葉を引き出すにはまだ足りない。
それに、好みの味は甘い物。何かスイーツを作れば喜んでもらえるのでは。どうしてもゼノを笑顔にしたい。これが私の願いだから。