腹減り虫
そう思ったが、本人が居るならポスターはなくてもいいのでは。いや、それとこれとは話が違う。実物はもちろん見たい。だが、静止画も必要だ。
本物をじっと眺めている訳にわいかないから。仕方ない、写真立てに納まる物にしよう。
ちらっとゼノの方を見ると、目が合った。にこっと笑うと、彼は目を逸らした。
「ゼノくん、いつ入ってきたの?」
「さっきだ」
「そう」
気を遣ってくれているのか、本当のことなのか。はたまた気まぐれか。ゼノのことは誰よりも知っていると思っていたが、まだまだのようだ。
「邪魔したな」
私が返事をするより先に出ていってしまった。もう少し話したかったのだが、近付きすぎないようにと決めたばかりだ。追いかけるのはよそう。
近付きすぎず、けれど突き放さず。適度な距離感をもって、村人という役目を演じよう。
そう思ったものの、ゼノは毎日のようにこの家に来た。そして、必ず食べ物を持ってきてくれた。
こんな家を作り出せたのだから、食べ物には困らないだろうと思っていた。しかし、そう上手くはいかないもので、食料は何度挑戦しても現れてくれない。
だから、ゼノがくれる食料はありがたく頂いていた。
「ありがとう」
いつもはかごを置いたらすぐに帰ってしまうのだが、今日は何か言いたげな様子でテーブルに寄りかかった。
すると、ゼノのお腹が盛大に音をたてる。
「腹減った」
「ご飯食べてないの?」
「ああ」
まさか、自分の食料を私にくれているのだろうか。食いしん坊のキャラが私の中で定着していたゼノ。そんな彼が食べ物を分け与えてくれるということは、すごいことなのだ。
仲間にクッキーを食べられた時には、辺り一面が焦げるほどに怒っていたから。
そのエピソードを思い出し、そのかごを受け取るのを少々恐ろしくなった。けれど、そのまま引き取ってもらうのは悪い気がする。とりあえず、本日のラインナップを教えてもらおう。
「今日は、何を持ってきてくれたの?」
「パンとかチーズ」
かごの中身を広げ、持ってきたものを見せてくれた。
「あと、野菜に卵。クッキー。リンゴジュースもある」
またずいぶん沢山持ってきてくれた。テーブル中に広げられた食材は、どれも美味しそう。食べるのが好きなだけあって、目利き出来るのだろう。
さてこの食材をどうするか。ゼノの腹が満たされていないのなら、受け取れない。けれど、彼の思いを無下にすることもしたくない。どう対応するのが最善なのだろうか。
「あんた、いつも料理とかするのか?」
「するよ。簡単なものだけど」
「へぇ」
まさか、これはゼノが私の料理をご所望か。いや、これも気まぐれの質問かもしれない。どっちだろうかと思い悩んでいると、彼の腹の虫が催促するように鳴った。
「ご飯食べる?」
「食う」
間髪を入れず聞こえた返事に、やる気がみなぎってきた。もともと料理は好きだ。この世界の住人の口に合う物を作れるが分からないが、私の中の選択肢は作るただ一つ。
ゼノに手料理を振る舞えるなんて、願ってもみなかったことだ。こんな機会、この先二度と来ないだろう。