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乱気流

 そうは思ったものの、ゼノ本人は気づいていないかどうか心配だ。でも、そわそわしても仕方ない。いつも通りにしよう。

「ゼノ君、荷物はどこに置いたの?」

「荷物なんかねえよ」

「必要なものはある?私用意するよ」

「いらねぇ」

 いつもと変わらないそっけない態度。きっと気づいていないだろう。ほっとした気持ちとがっかりした気持ちが半々だ。まあ、このまま変わらない日々が続けばそれでいい。


 いつも通りに玄関のドアを開けた。けれど、今日はいつもと違う日。散らかった部屋をお披露目する羽目になってしまった。いろんなものを積み上げたテーブルの上にゼノのアクリルスタンドが出ているではないか。いつもは棚の中に隠していたのに。一度持ち物を整理しようと、棚の中身を広げていたのを忘れていた。

「うわぁ」

 ゼノの目の前で手をバタバタさせると、すごい顔で見られてしまった。

「ちょっと外で待ってて」

「おい」

 彼の背中を押し、扉の外に追い出す。本人に好きなことがばれるほど、恥ずかしいことはない。持論ではあるが、こういうのはひっそり応援するのがいい。それでも認知されたいと思う反面、本人に知られずに好き勝手好きでいたい。行ったり来たりの感情のジェットコースターみたいだ。

 そんなことは後で考えるとして、とにかくゼノに関するものを隠さなければ。とりあえず食器棚にでも入れておくか。いや、ガラス戸では見つかるかもしれない。ベッドの下は壊れる可能性がある。どこに隠したらいい。両手でゼノ(中)、(小)を抱えながら、部屋の中を右往左往していると私のゼノ達が奪い取られた。

「なんだこれ?」

「ええっと、それはですね……」

 なんと説明すればいいだろう。せっかくロナが気づかれないようにしてくれたのに。自分のアクリルスタンドを持っている人が目の前にいたら引くだろうか。眉間にしわを寄せながら自分の姿を見ている。そりゃそんな顔にもなるだろう。

「これはどうなってるんだ?」

「え?」

「なんで、俺はこんなに小さいんだ?」

 気になるのはそこなんだ。なんでこんなものを持っているのかと問い詰められるかと思った。それよりもどうして自分がこんなに平面なのかが気になるようで、裏返したり逆さにしたりしていた。アクリルスタンドなどこの世界には存在しないだろう。

「これ、あんたのか?」

「うん」

「これは一体なんだ?」

「アクスタなんだけど、私のお守りみたいなものだね」

「へぇ」

 外出する時、ゼノのグッズは何かしら持ち歩いていた。ふとした瞬間、負の感情に飲み込まれそうになった時は、その存在に何度も助けられた。正式なご利益などないのだが、それは本当にお守りのような存在だった。家にもう少し大きいアクリルスタンドがあるのだが、それはさすがに外に持ち出したことはない。


 全てを見下したような微笑み。何も期待していないように伏せられた目。少し猫背がちな立ち姿。その絵柄が一番好きなのだが、大きいので持ち歩くには手に余る。全てのグッズをこちらに持ってくることが出来ればいいのに。いや、持ってきたとしても置き場所がない。もう一人暮らしではない。毎日のように人が居る場所には飾るのはためらわれる。

 まあ、本人が目の前にいるならそんなものはいらないのかもしれないのだが。けれど、本人だからこそできないこともある。本当は真正面から眺めていたい。それなのに、私がいつも見ている姿の多くはその後ろ姿。たくましい背中はもちろん好き。風に揺れる髪も横顔も好きだ。どんな角度でも表情でも好きなのだが、やはりその正面に勝るものはない。

 見上げた顔は少し困り眉。公式からは出たことのなかった表情に、つい目を逸らしてしまう。やはり本人が居てもアクリルスタンドは必須だ。少し離れた距離でないと直視できない。

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