お揃い
トーガと話しながら、部屋の準備をしているとロナが帰って来た。彼とは反対に大荷物を持ってきたというのに、全く疲れていない様子。
「ただいま」
「おかえり。その荷物、一人で運んできたの?」
「そうよ」
これまた可愛いトランク。しかし、五泊はできそうなほどの大きさ。しかもそれが三個もある。ここは町から遠く離れた山奥にある。木の根や坂道があり、木が生い茂っているため、地面はぬかるんでいる。それなのにドレスやトランクに汚れ一つない様子。しかも可愛いローファーは真っ白いままだ。とんだ怪力の持ち主だったのか。そしてトーガ以上の瞬発力で木の上を渡ってきたのだろうか。
彼女もまたいろんな思いを抱えて努力してきたのだろう。私も強くなれるようにと決意を新たにした。
「エトちゃん、すごい顔してる」
「だって、ロナちゃんすごい力持ちだなって思ったから。私も頑張ろうと思ってね」
「私、風の魔力が使えるって言ってなかったけ?」
ロナは軽々と重たそうなトランクを宙に浮かせた。そして、自分の体も浮かせて見せた。種も仕掛けもないのに重力に逆らって浮いている。
「すごいね」
「こんなの誰でもできるよ」
ふわりと着地し、ドレスの裾を整えた。まるで妖精でも見ているかのように、その仕草は可憐だった。
「私には出来ない」
「僕も出来ません」
トーガと「すごいね」と顔を見合わせて言うと、ロナは照れ臭そうに髪飾りを触る。今日は夜空のような髪飾り。動くと星が揺れるようになっており、キラキラしていて素敵だ。私の視線に気づいたのか、彼女はにこりと笑う。
「エトちゃんも素敵よ。新しいお洋服作ったのね」
「そうなんだ」
最初に着ていた洋装も気に入ってはいたのだが、やはりここに来たからにはゼノと同じ和装にしたかった。でも、なかなか着ることが出来ずにいた。
もし、この世界に来ることが出来るならどんな服で登場しようかとよく考えていた。ゼノと同じものがいいのだが、全く同じなのはおかしく思われるかもしれない。だから、ゼノの炎の色である青を入れつつ可愛い要素も取り入れた着物を思い描いていた。
何度か着物を作りに挑戦してみたのだが、思い通りの出来にならなかった。だから、少し和柄や袖を取り入れた和洋折衷のドレスを作ってみた。試作ではあったが、なかなか上手く仕上がった。
皆がいない間に着ていたのだが、着替えるのを忘れた。予定外のお披露目になってしまったが、褒めてもらえて嬉しかった。
「ちょっとゼノ君と似てるね」
「そうなの。分かる?」
「うん」
さりげなく概念コーデをしてみたのだが、あからさま過ぎただろうか。
「裾の青色が炎みたいな模様だし、襟元のレースはと帯は包帯を模してるんでしょ?」
「分かりやすすぎるかな?」
「少しね」
ゼノが帰ってくる前に、元の服に着替えてこようか。
「トーガ君は気づいた?」
「何がですか?」
私たちの話に飽きたのか、金槌で木枠を作るのに夢中だった。キョトンとした顔でこちらを見上げている。私の服が変わったことにも気付いていないのかもしれない。それならそれでいいのだが。
「殿方たちには気づかないかもね」
「それならいいか」
なんだか髪を切った時のことを思い出した。たいして長さは変わらないのだが、自分の中では全然違うように感じた。だから、だれか気づくのではないかと一日そわそわしていた。結局誰にも気づかれないまますぎるのだが。
意外と他人は自分のことなど気にかけていないと分かっているが、時々こうして気づいてくれる人がいるから油断できない。まあ、ロナはおしゃれが好きだから人の服装も気になるのだろう。だからゼノ達には気づかれないはず。堂々と着ていよう。
「ただいま戻ったよ」
「おかえり」
「おや、素敵なドレスだね」
「え?」
「なあ、ゼノ。エトちゃんのドレス、なんだか君の、うわぁ」
レインが言い終わる前に、ロナが彼の体を浮き上がらせた。
「ロナちゃん、ナイス」
ロナが誇らしげにガッツポーズをする。その間もレインは空にほったらかしにされ、じたばたしていた。
「二人は家の中で休憩してきて。私、クッキー持ってきたの」
手渡された紙袋はどっしりとした重たさがあった。きっとみんなで食べる用に持ってくれくれたのだろう。
「俺も食べるよ」
「あなたはダメ」
「俺がなになにしたって言うんだよ」
叫ぶアインがさらに悲鳴を上げる。ロナはやれやれといった様子で、さらにレインを上に飛ばす。
「何やってんだ、あいつら」
呆れるゼノには気づかれていないようでよかった。とにかくレインの口を封じているうちに、家の中へ行こう。きっとその間に、それとなくレインに事情を説明してくれるはずだ。




