再会
出会うはずのなかった人だから。それでも。
「もっと名前、呼びたかったな」
幸せを願った人。けれど、彼を幸せにするのは私ではない。だから、遠く見守ろう。
窓の外の景色にはゼノはいなかった。期待はしていなかったが、なんだか寂しくなった。
また、ひとりになってしまったな。現実世界でも、そう違わない現状。どこにいても変われない自分に嫌気がさす。
知り合いも家族もいない。ほんとうにひとりぼっちだ。
さっきまではなんとも思わなかったのに、緊張の糸が切れたのか涙が溢れてきた。
元の世界に帰りたいわけじゃない。ただ、ひとり取り残されたような孤独感が胸を締め付けた。
布団にくるまり泣いたら、そのまま寝ていたようだ。もしかしたら現実に戻ってきてたりしないだろうかと思ったが、このレースの枕は買っていない。
少し時間が経ち、重い気持ちはちょっとだけ楽になった。ゼノを失った悲しみに比べればたいしたことない。そう言い聞かせ、ベッドから起き上がる。
何かの気配を感じて振り返ると、思ってもみなかった人がそこに居た。
「ずいぶん可愛らしい部屋だな」
フリルの付いたカーテンを摘まんで、眉をひそめた。見た目に似合わずとでも言いたげな顔だ。
たしかに、色合いやデザインは可愛い。ずっと憧れていた、おとぎ話のお姫様の様な部屋。私には似合わない。だから、可愛い雑貨や家具を見つけても買わなかった。
誰も知らない私を見られたくなかったのに。けれど、ゼノ相手ではそう思わないのが不思議だ。
「ゼノくん、なんでここに?」
「助けられた礼をしてなかったからな」
「気にしないで。私が好きでやったことだから」
「なら、俺も好きに恩返しさせてもらうぜ」
そう言って、テーブルに食料が沢山入ったかごを乗せた。ゼノはこんなに人懐っこ感じだっただろうか。
私のイメージでは、人にも物にも無頓着。恩なんて感じない。冷たい人だと思っていた。その凍えるような冷たさが好きなところでもあったのだが、ギャップがありすぎて更に好きになりそうだ。
「寂しくて泣いてたかよ」
この顔では否定しても、意味がないだろう。だが、肯定することも出来ず俯く。
「わりぃ」
「ゼノくんが悪いわけじゃないから」
「これ食えよ」
差し出されたのはクッキー。ゼノの大好物だ。青嵐の丘の繁華街にあるクッキー屋のもの。彼はチョコチップクッキーをよく好んで食べているらしい。それ以外にも、アップルパイやマフィンなど甘い物を選ぶそうだ。
真っ黒な服に傷のある顔。そんな彼が甘い物好きなんて、たまらなく可愛い。今度ケーキを焼いたら食べてくれるだろうか。レシピはうろ覚えだが、挑戦してみよう。
「うまいか?」
頷くと安心したようにそっぽを向いた。
「それにしても、勝手に入って来たらだめじゃない」
「別にいいだろ」
いいけど、ゼノのポスターを貼れないじゃないか。等身大サイズと上半身の特大サイズを作ろうと思っていたのに。
本人が来るのでは、そんなこと恥ずかしくて出来ない。何よりゼノが嫌がりそうだ。