風の吹く道
一番最初に帰ってきたのはトーガ。手ぶらのように見えるが、風呂敷の包みを背負っている。それだけではあるまいと、彼の周りを一周してみたが、荷物はそれだけだった。
「あの、戻りました」
「おかえり。荷物はそれだけ?」
「はい。もともと、外で寝泊まりする事が多かったので」
必要最低限なのだろうが、それにしても少なすぎる。私が引っ越しの時は断捨離するだけでも、かなりの時間がかかったというのに。
「必要なものは何かある?用意するよ」
「いえ、大丈夫です。少ない方が移動する時、楽なので」
「どこかに行っちゃうの?」
まるですぐに出ていけるように準備しているかのよう。確かに彼は修業という名目でここに着いて来た。それが終わればどこかに行ってしまうのだろうか。てっきり、みんなずっとここにいると思っていたのに。
「だって、僕は邪魔者ですから」
トーガの過去がそうさせるのか。家を追われ、ルーヴェルの元に行ってからも転々としていたのだろう。それが彼の普通なら、否定はしない。けれど、そうでないならどうか離れないでほしい。
「邪魔者なんて思ってないよ。もし、そう言う人がいたら私に教えて」
「え?」
「この金棒でぶん殴りに行くから」
「お師匠はやっぱりすごいや」
「そうかな」
「でも、本当に殴ったら駄目ですよ。世界を敵に回しちゃいますから」
気の利いた言葉も見つからなければ、嘘をついて人の心を救うこともできない。だから、気に入らない相手を倒すだけ。すべてを丸く収めようとなんて思わない。自分の大切なものを。周りの人を守れるのならそれでいい。顔も知らない、ましてやトーガを悪く言う人など擁護する必要などない。
「心配いらないよ」
「でも」
「世界は味方より敵の方が多いんだから」
本当に頼りになるのはほんの一握り。一番苦しい時にそばにいてくれて人。私が守りたいのはそんな人だけ。それ以外の人は、嫌われてもなんとも思わない。所詮他人だから。
きっと誰かが助けてくれる。なんて、人はそう優しくはない。あの人なら力になってくれるかも、そんな期待を何度裏切られたことか。
だから、人は信じたくなかった。それでも、ふとした時に、もう駄目だと思った時に助けてくれる人もいるもので。だから、完全に憎めないでいた。そんな揺れ動く心の中で見つけたこと。それが、全てに期待しないこと。人にも運にも。
まずは最悪の状況を考える。そうすればこの先起こることに絶望することはなくなるから。
「僕もお師匠みたいに。あなたのように強い人になりたい」
「ならない方がいいよ」
「教えてください、お師匠の生き方。知りたいです」
きっと私たちはよく似ているのだろう。だから、どこか他人事のように思えない。助けを求める、声なき声が聞こえてくるから。
「分かったよ」
「ありがとうございます」
「でも大切にしてほしいのは、自分がどう在りたいか。それを考えた上で、取り入れようと思った事だけを自分のものにする」
「はい。僕は僕ですから」
「それが分かっているなら、よろしい」
私があの頃して欲しかった事とトーガが求めていることは、似ていても違うのだろう。けれど、分かることも少しある。
それが正解なのかは分からないが、何もしないよりはましだ。これからの彼の歩む道が少しでも険しさから遠ざかることが出来るように、伝えられる事は伝えよう。




