氷の薔薇
そういえばロナ以外手ぶらで来ている。
「みんな、荷物は?」
三人が顔を見合わせる。聞くまでもなかったが、持ってきたい物がないわけではあるまい。馬車か何かで持って来られたらびっくりするが、多少の荷物なら対応できるだろう。
「じゃあ、各々荷物を持って夕方にまた集合しようか」
「はーい」
ロナは行かなくてもいいだろうと思ったが、大きなトランクを残して行ってしまった。さっきまであんなに騒がしかったのに、急に静かになってしまった。
私も自分の持ち物を持ってくることが出来たらいいのに。枕だけはどうしても使い慣れたものでないと、安眠できない。何度も作り直しているのだが、年月に勝るものはなかなか作れない。それでも、今日はぐっすり眠れそうだ。
みんなが帰ってくるまでに、仮の部屋を作って一応寝具も揃えておいた方がいいか。ゼノは荷物が少ない気がした。着物すら持って来ないような気がするが、さすがにそれは無いだろう。部屋の内装は畳の方がいいのだろうか。和風な服装の彼ら。畳の部屋でくつろいでいる姿を見たい。とりあえず畳にしておこう。要望を聞けば、木目調の床がいいと言われるかもしれないから。
外に出て、大枠を作っていると足音が聞こえた。もう誰か帰ってきたみたいだ。
「おかえり」
振り返ると、花束を抱えたアインが立っていた。
「久しぶりだね」
「そうね」
「元気だったかい?」
あまりにも自然に話しかけて来るものだから、うっかり返事をしてしまった。
「ずいぶんと賑やかになるみたいだね」
「……」
関わりたくない。でも、こんな顔をさせたい訳でもない。どうしたらいいのだろう。
「良かったら、お嬢さんに」
「受け取れません」
こんなもの見つかれば、またゼノが燃やすだろう。それにアインと接点があると知られれば、あの仲間たちとは一緒に居られない。
「分かっているよ。だからこれを」
そっと手を取られ、渡されたのは花束から抜き取られた氷の薔薇一輪。なんて冷たい手なのだろう。氷よりも冷たくて、心まで凍ってしまいそうな温度。
「また来るよ」
「あの」
「誰も居ない時にね。では、また」
残りの花を持って帰ってしまった。もし、アインもここに住んだらどうなるだろう。そんなありもしない未来を想像してみる。
彼らの間にあるわだかまりを取り除く事が出来れば。三国が争い合うことのない世界に出来れば。いつかアインもなんて、何を考えているのだろ。彼はゼノを殺した憎い人。その事実が消えたとても、私の中の記憶は色濃く残っている。
余計なことは考えないようにしなければ。ゼノを守るかとが私の指名。ここに居る意味だから。
皆が続々と戻って来た時、手の中の薔薇は冷たさだけを残して溶けていた。




