みんなの家
だが、この位置が一番居心地がいい気がしてきた。
「お師匠の家に行くの、楽しみですね」
「そうか?」
「だって、すごい魔法の道具とか大鍋とかあったりして」
「確かに、でかい鍋はあったな」
それはゼノがよく煮りんごを食べるからだ。普通の鍋ではすぐに食べきってしまうから、学校給食の厨房にあるくらい大きな鍋を出した。そして張り切って魔法使いが使うような模様にしたものだから、怪しいものでも作っている気持ちになっていた。
最初に見たときは、ゼノも怪訝な顔をして中をのぞき込んだが、煮りんごだと分かると満足げに定位置についた。
「ゼノさんだけずるいです」
「そうだね。俺も見てみたいな」
「大したものはないけど」
毎日のようにゼノが来るので、散らかってはいない。なんなら現実の世界の部屋とは比べものにならないくらいすっきりしている。なんたって、本人の前ではグッズなんて置けないから。まあ、いつか祭壇を作りたいとは思っているのだが。何人も出入りするなら、しばらくは様子見だな。
個別にはしゃぐ左の二人に、それを見守る右のゼノ。なんだか兄弟みたいだ。
「みんなは兄弟いたりするの?」
「いない」
両端の二人は即答。本当にいないのか、思い出したくないのか。ゼノには兄弟がいたような。確か業火の森に弟がいるという情報が出ていた。まあ、本人がいないと言うのなら、深追いしない方がいいのだろう。でも、ずっとここにいたら、ゼノの兄弟に遭遇する日が来るのではないだろうか。
ゼノと似ているのだろうか。それとも全く別の系統か。どちらでもいいのだが、私としては似ていない方が嬉しい。似ていれば比べてしまいそうな気がする。みんな唯一無二の存在だから、そんなことする必要はないのだが。やはり、兄弟というのは特別なものだ。まあ、私がより好きなのは兄属性だから問題はない。
「じゃあ、同じですね」
「トーガ君も兄弟いないんだ」
「はい。両親もいません」
なんと言ったらいいのか。考えても浮かんでは口をつぐむ。しかし、何も言わないのも不自然。それに、またレインが余計な一言を言うかもしれない。
「そんな両親、顔も知らなくて良かったな」
「ちょっとレイン」
「だってそうだろう。こいつは捨てられてた。まだ、生まれて間もない頃にな」
「なんでレインが知ってるの?」
「ルーヴェルに聞いた。あの人の育ての親が拾ったんだと」
たしかルーヴェルも家族がおらず、その育ての親とやらと共に生活をしていた。今は行方不明になっているらしいが、先ほどの城を築いたのはその人だと書いてあった。だから、トーガはルーヴェルと親しくしていたのか。
複雑な家族関係のある人が多い。あの言い方のレインもまた、家族と何かあったのかもしれない。そう思うと、なんだか強く言えない。彼も思うところがあるのだろうから。
「僕、帰ります」
「トーガ君」
「修行は明日から、お願いします」
「分かった。でも、帰る場所はこっちでしょ?」
私の家の方を指で示す。けれど、彼はうつむいたまま動かない。さっきまで、あんなに家に行くのを楽しみにしていたのに。
「僕、お師匠の邪魔になるから」
「そんなこと言ってないよ」
「だって、僕、何の魔力もない。だから捨てられた」
今にも泣きそうな声。明るく振る舞っていたが、心に負った傷はそう簡単には癒えない。そのことを覚えていても、いなくても。ふとした瞬間に得たいのしれない闇に飲み込まれるような感覚。なんとなく分かる。
でも、どうすることも出来ない。過去を変えることも、その闇から解放することも。それは、私たち自身が作り出したもの。誰もが抱えているものだから。
それでも、一緒に手を取り合うことは出来るはず。
「私も魔力はないよ」
「でも、魔法が使える」
「こんなの、まだ魔法じゃない」
魔法とはもっときらきらしてて、誰もが心解けてしまうようなもの。
「一緒に見つけよう。私だけが出来ること。君にしか出来ないこと」
「僕にも出来ますか?」
「きっと出来るよ」
今は自身を持ってそう言える。トーガな、心の痛みを知っている彼ならば。
「さあ、帰ろう」
「はい」
その顔は、真夏の太陽よりも輝いていた。




