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過去と未来

 ここまで来たら、もはや仲が良いのではと思ってきた。横に並び、ずっと言い合っている。

「お師匠、止めた方がいいですか?」

「大丈夫でしょ」

 いがみあってはいるものの、互いに傷つけようとは思っていない。本当に攻撃するつもりなら、最初からそうしているはずだ。けれど、油断はできない。ゼノに危害を加えるそぶりを少しでも見せた時は、容赦しないつもりだ。いつでも金棒を取り出せるように手をかけている。

 それにしても、子供っぽいゼノもいいかもしれない。なかなか見られる姿ではないので、もう少し見ていたい。いくらファンタジーな世界でも、過去に行くことはそう簡単にできるものではないだろう。そんなことが叶うのなら、ゼノの生まれる前に行って世界の全てを彼のためのものにする。苦しみも悲しみも何もない、ゼノが主人公の物語。

 暖かい日だまりになかで、家族とともに笑っている。けれど、それは私が考えた幸せの形であって彼の望みではないかもしれない。それに、変えてしまったら今の彼を否定しているようでならない。どんな痛みも苦しみも、憎しみさえもゼノがゼノであるためのもの。消えないその傷でさえも。それらが今のゼノを作り上げているのなら、その全てを受け止めるまでだ。彼は苦しいかもしれないが、その苦しみを忘れるくらいの未来を、彼が本当に望んでいる景色へと連れていきたい。だから、戻らなくてもいい。

 もし、またゼノの首が落とされることがあるのならやり直したいと願うのだろうが。そうならないように全力を注ぐ決意を新たにした。

「ゼノ君はいま……」

 幸せなのか知りたかった。でも、まだだ。見つかった時に教えてくれる約束だ。だから、私から聞いてはいけない。

「ゼノ君はそのままでいてね」

「急にどうした」

「ちょっと思っただけ」

「そうかよ」

 変わらないのはきっと難しいことだ。ずっと続いていく人生の中で、たくさんのことに出会う度に考え方や行動が変わっていく。数年前の自分と今の自分。比べてみると全然違うところもあれば、同じところもある。あの頃の私を好いてくれていた人たちは、今の私を見てどう感じるだろう。

 今まで通りの人もいるだろうが、きっと離れていく人もいる。それで構わない。変わったことがあったから、変わらなかったこともあったからゼノに出会えた。少しでも違えば彼の生き方に共感しなかっただろうし、好きになることもなかった。その存在が心の支えにならなければ今の私はいない。だから、これでいい。このままがいい。

「どんなゼノ君も好きだから」

 笑いかけると、ゼノは顔をそむけてしまった。「俺には相応しくねえよ」なんて言うから、その頬を両手で包み込み、視線を合わせる。その顔はどこか泣きそうに歪んでいた。

 そんな顔させたくて言ったわけじゃないのに。この思いが、彼の心に届くのはまだ先のようだ。それでも、何度も伝えよう。

「俺は君のこと嫌いだな」

「ちょっと。レインは黙ってて」

 私が睨むと同時にトーガがレインを小突くが、素知らぬ顔をしている。好き嫌いは強制するつもりはないが、タイミングを考えてほしいものだ。どう考えても今じゃないだろうに。だが、ゼノはいつもの調子に戻ったようで、悪い顔をする。

「ああ。俺もお前のことが大嫌いだ」

「気が合うね」

 また睨みあう二人。「僕が止めてきます」とトーガはレインとゼノの間に意気揚々と割って入るも、その迫力に圧倒されて私の後ろに隠れた。

「さっきの威勢はどこに行ったの?」

「無理ですよ。レインには何でも言えるけど、ゼノさんはちょっと怖いです」

 それならなんで行ったのかとは思うが、一度挑戦した勇気は素晴らしい。確かにゼノは怖く見えるからな。本当はそうではないのだが。そのイメージを払拭するこは後程。

「とりあえず、二人は離れておこうか」

 ゼノとレインの間に入り、トーガを手招きする。一列に並び、歩き出す。もちろん私はゼノの隣り。狭い歩道ならこんなことできないがが、ここは広大な森の中。四人並んでもまだまだ余裕があるが、変な構図だ。誰も見る人はいないからなんの問題もないのだが、何か悪いことをしている気になった。

「なんだか家族みたいですね」

「そうだね」

 とは言ったものの、この位置では私とトーガが子供でアインとゼノが親のポジションになる。トーガはいいとして、私はこの二人の小競り合いを鎮めた実績がある。よって子供ポジションは納得できない。

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