雨と火
この状況、どう対処するべきか。もちろん私の最優先はゼノだ。それは揺るぎないのだが、レインだけ追い返すのはあまりにも可哀想だ。だが、先ほどからゼノの機嫌があまり良くないように見える。
「レインには帰る場所があるんでしょ?」
「ない」
「あ゛?それだろうが」
ゼノが指さす城は、急激な雨によって見えなくなった。
「帰らないとみんな心配するんじゃない?」
「問題ない」
そう言われれば、もう何も言い様がない。年齢は分からないが、居なくなって心配されるような年ではないだろう。そもそも、ゼノも同じような感じだろうし。居ても居なくてもどっちでもいいといった場所なのだろう。
「あれは家ではなく、ただの寝床だからね」
「そんな屁理屈言ってねーで帰れ」
「いやだね」
その屁理屈は自分でも言っていたような気がしたが、黙っていよう。
「お師匠、どうしますか?あの二人、あんまり仲良くなくて」
「そうだろうね。トーガ君も仲良くないんでしょ?」
あの物の言い方といい、暴言を吐く早さといい好意を持っているとは思えない。互いに離れていた方がいいと思うのだが、レインはそう思わないらしい。
「俺だけ仲間はずれなんて酷いじゃないか」
「城で雪だるまとでも遊んでいればいいだろ」
「彼、いつも寝ているからつまらない」
「だったら、ボスに付きまとってろ」
「やだね。氷漬けにされる」
両者睨み合い、一歩も譲る気はないようだ。今にも戦闘が起きそうな雰囲気。炎の使い手であるゼノにとってこの場所は不利になるかもしれない。まあ、どんな状況下でも切り抜けることは出来るだろうが。
相手は仲間だ。無意味な争いは出来る限り無い方がいい。レインもまた、ゼノの未来を守る戦力になるかもしれないから。
「レインって強いの?」
「はい。でも、本気を出したところはあまり見たことありません」
「そうなんだ」
「あの人、いつもへらへらしてるんです」
「だから苦手です」とぼそっとこぼすトーガ。二人の間に何があったかは、分からないがこのまま足止めされていてはトーガが凍えてしまう。
「とりあえず、この吹雪から出よう」
トーガと歩き出したものの、あの二人はまだ言い合っている。
「二人とも、行くよ」
吹雪でかき消されないように、大声で言う。しかし、彼らには聞こえていないようだ。拡声器を取り出して、叫ぶ。
「喧嘩は後にしてください」
思いのほか大きな音がして、風の影響もあってかキーキー音がした。耳がおかしくなりかけたが、その甲斐あって二人の喧嘩は収まった。
吹雪を抜けると、急に春が来たような暖かさ。だが、トーガはまだ寒そうにしていた。重ね着をしすぎて動きにくそうだが、そのシルエットが可愛らしい。だが、本人には言わない。先ほどレインに「君、リスみたいだね」と言われ、憤慨していた。
既に凍えていたのに、コートやマフラーを脱ごうとするものだから急いで止めた。そしてその様子をゼノが鼻で笑ったものだから、今度は悲しげにフードを深くかぶってしまった。そして今に至る。
森の中に鳥の鳴き声と、足音だけが聞こえる。居心地は悪くないのだが、変な感じだ。この世界の住人達と普通に居ること。未だに慣れないでいた。
そもそもひっそりとゼノを守ろうと思っていた。だから、誰かと交流することは考えていなかった。それなのに、この物語の敵の中枢に入り込み仲間になってしまった。これからどうしていけばいいのか。私がこの三人と一緒に居るのは場違いな気がしてならない。
「お師匠、もうすぐ着きますよ」
「エトちゃんの家か。楽しみだな」
「おい、こいつは家に入れるんじゃねえぞ」
それでも、あまりにも自然に私に接するものだから、このままでいいのかもしれないと思ってしまった。いつまでもこうしていたい。
冬の終わりを告げる、太陽の日差しみたいな暖かい時間。少し冷たい風が吹くものの、心地よく感じる。
仲間と喧嘩しててもいい。ずっと不機嫌な顔をしていても構わない。ただ、その命がいつまでもそこにあるのなら。どんなことでも、笑い飛ばせる。だからどうか生きていて。
そう願いながら、再びレインと言い争いを始めたゼノの背中を眺めていた。




