帰る場所
トーガが玄関の扉の大きい方を開けるものだから、吹雪が城内に吹き込んできた。風の勢いに負け、飛ばされそうになったところを、レインが受け止めてくれた。
「危なかったね」
「ありがとう」
「お礼はいらないよ。代わりといってはなんだが、その魔法とやらを見せてくれないかい?」
レインはほかの幹部とは違って随分と好意的だった。けれど、こうもぐいぐい来られると戸惑ってしまう。だが、彼の柔和な雰囲気に絆されてしまいそうになる。
「大したものじゃないよ」
見せびらかすわけではないが、もったいぶる必要もないだろう。けれど、レインについては何も知らない。トーガのことは元々知っていたから透視のように見えることが出来たが、今回はそうはいかない。
私の中で思い描く魔法というものは空を飛ぶことだ。やってはみたいものの、ぶっつけ本番は危険だろう。それなら、前にもやったことのある花を出現させる魔法を披露しよう。両手のひらを皿のようにし、頭の中でイメージする。
三人が見守る中、白い花は私の手のひらの上で咲いた。
「これは何という花?」
「鈴蘭だよ。小さくて可愛いのが好きなんだ。どうぞ」
レインに差し出すと、少しためらいながら受け取った。
「俺がもらっていいの?」
「もちろん」
「ありがとう。とっても素敵な魔法だね」
喜んでもらえてよかった。いらないと言われたらどうしようかと思ったが、その心配はいらなかった。彼はガラス細工でも扱うように、そっと花を握っていた。
「また見たいな」
さっきまでのレインとはなんだか別人のように見えた。もともと優しい声だったが、もっと繊細で温度が上がったようなそんな声。穏やかな表情で手のひらに包まれている花を見つめ、私に笑いかける。その顔は誰かに似ているような気がしたが、思い出す暇はなかった。
「おい、トーガ」
ゼノに呼ばれるとすぐさまレインに向かって飛んで行った。
「お師匠の魔法は見世物じゃねえぞ」
「分かってる。魔法というものがあるのなら、どんなものなのか見てみたかっただけさ」
氷や炎を操る力こそ魔法のように見えるが、彼らにとっては当たり前。そんな中でほんの小さな花一つ。何の力にもなり得ないが、喜んでもらえるのならみんなと違ってよかったかもしれない。
「早く行くぞ」
「はーい」
待ちくたびれたゼノは、もう外に出て待っていた。案外せっかちなところがあるのだな。でも、そんなところもいい。レインに手を振り、ゼノのもとへ駆け寄る。
「待たせてごめんね」
「構わねえよ。それより寒くねえか?」
「うん。大丈夫」
来た時よりはましになってはいるが、まだ吹雪は止んでいない。けれど、不思議と寒くないのはゼノと一緒だからだろうか。
「それならいい」
ゼノは日を追うごとに優しくなっていく。冷たく一匹狼のような彼が好きだった。誰も寄せつけない鋭い目つき。終始眉間にしわが寄っている表情。
だけど、優しいお兄さんのようなゼノもまたいい。どちらのゼノも好きすぎる。
「あの、僕は寒いんですけど」
消え入りそうな声のトーガは震えていた。
「お前、なんで着いて来てる?」
「なんでって、僕は一番弟子だからです」
「理由になってねえよ」
「それならゼノさんだって、なんでお師匠に着いて来てるんですか?」
「なんでって、そりゃあ……」
その言葉の続きが気になるが、吹雪で聞き取れなかった。なんで肝心なところで風が吹くのだ。なんと答えたのだろうか。それとも何も答えなかったのか。この場所からでは確認できなかった。今度からゼノの顔の見える位置の立っておこうと決めた。けれど、彼の後ろ姿、好きなんだよな。
細身ではあるのだが、がっしりとした肩幅。ちらっと見える腕は筋肉質で、力を入れた時に現れる筋がかっこいい。だか、この吹雪の中ではお目にかかれない。
「ここは寒いから、とりあえずみんなで家に帰ろうか」
「はい。僕、凍えそうです」
歩き出そうとするも、ゼノは立ち止まったまま。どうしたのかと、その視線の先に目をやるとレインがいた。
「お前は城に帰れよ」
「なんで?エトちゃんはみんなでって言ったでしょ」
レインは自分がここにいるのが当然といった様子。確かにみんなでとは言ったが、彼まで着いて来るとは思わなかった。




