幸せの青いふわふわ
けれど、ふと思った。ゼノの幸せとはは何だろう。私がもたらそうとすることと、彼の欲しいものが違ったならそれは一体なんと呼ばれるのか。ただの、自己満足にすぎないとしたら。それは私のための幸せになってしまう。ゼノの声が聞こえる。少しけだるげな声で私の名前をを呼ぶ。
本当の名前じゃないけれど、彼からもらった大切な名前。だから、その名を呼ばれるととっても幸せ。まあ、めったに呼んでくれないのだが。それでもいい。幸せな瞬間はまだまだたくさんある。ゼノがご飯を食べている。夕日に眩しそうに目を細めている。窓際でうたた寝している。そして今日も生きている。ゼノが生きている限り、私の幸せが途切れることはないだろう。けれど、それが彼にとって苦難だったとしたら。
「聞いてんのか?」
「え?」
「帰るぞ」
「あ、うん」
どうやら会議は終わったらしい。促されるまま、ゼノの後について部屋を出た。足元を火の玉が照らしてくれる。ゆらゆらしながら、ゼノについていく様子はどこか小動物に見えた。この角度なら彼の視界には入らないだろう。様子をうかがいながら炎に手を伸ばすと、一瞬で彼の手元に移動した。
「触るんじゃねえよ」
「あ、バレた」
気づかれるとは思ったが、こんなに早いとは。まだ屈んでいなかったし、少し手を伸ばしたただけなのに。火の玉にセンサーでもついているのかと思うくらいに早かった。
「触っちゃだめなの?」
「駄目に決まってんだろ」
「一瞬だけでいいから」
どうにかならないかとお願いするも、そう簡単には許可してくれない。
「火傷したらどうする」
「みんな火傷してなかったじゃない」
「それでも熱いだろ」
「何度くらい?」
「さあな」
ゼノは私が触ろうとしないように、離れたところに明かりを灯した。せっかくのチャンスだったのに逃してしまった。これでは当分おとなしくしているしかない。彼が忘れたころに挑んでみよう。それか甘いお菓子を大量に作り交渉に持ち込むか。いい考えかもしれない。
「さっき、何考えてた?」
「なに?」
「部屋出る前だ。声かけても考え込んで聞いてなかったろ」
「ああ」
遠くで聞こえた気がした声は、やはりゼノの声だった。もしかしたら本当に名前を呼んでくれていたのだろうか。ちゃんと聞いておけばよかった。
「それで?」
「聞いてもいいかな?」
「なんだ」
「ゼノ君の幸せってなに?」
どんな色をしていて、どんな形なのだろう。ゼノは立ち止まり、しばらく考えていた。
「俺には分かんねえ」
そう言った彼の表情からは何も読めなかった。本当に分からないのか。それとも言いたくないのか。どちらにせよ、これ以上聞くことはできない。
「あんたは?」
「私は……」
言いかけて口を閉ざした。
「優しい青色で、ふわふわしてて。それですごくあったかいんだ」
「なんだそれ?」
訳が分からないといった顔だ。だが、それでいい。きっと言ってしまえば、ゼノを縛る呪いになりそうな気がしたから。だから、知らなくていい。ゼノには私の知らないところで、勝手に幸せになってほしいのだから。
「俺にも分かる時が来るのかねえ」
「いつかきっと」
私にもよく分からない。人と比べては羨ましがり、もっともっとと欲しいものが増えていく。心は満たされるどころが、足りないものばかり。もっと運がよければ、もっとお金があれば。なんて思ってしまう。
それでも、なんともない瞬間。曇天に差し込んだ一筋の光のような時を目にする。そして、後になって気づくのだ。
ああ、あの時。幸せだったな
その時気づけなくても思い出した幸せを感じることが出来たなら、まだこの先待って居るであろう者に出会える。
星のようにキラキラかもしれない。それは風のように涼やかだったり。灼熱の太陽のように燃えさかっているかも。
きっと今は見つけられないだけ。今を見ることに夢中で、過去や未来に目を向けられない。でも、それでいい。今を生きる。それが一番大切なことだから。




