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青と灰色の廊下

 薄暗い城内に、雫が落ちる音が響く。ぽたっ、ぽたっと不規則に聞こえる音がどこか恐ろしさを掻き立てる。しかし、暖炉の前にいるかのようにじんわりと暖かさを感じるのが不思議だ。

「なんだか暖かいね」

「そうですか?」

 トーガはぷるぷる震えている。橋の上で散々ごねていたから、温まったのだろう。そうなら私を力いっぱい引っ張っていた彼も同じはずだが。代謝の違いだろう。私はどちらかというと暑がりなほうだから。コートやマフラーを外していくと、トーガはぎょっとした顔をした。

「君、さっきまでコートなんて着てなかったよね」

「外では大丈夫ですけど、この城で薄着だなんて」

「暖かいよ。むしろ少し暑いくらい」

「ここで暑いなんて言うの、ゼノさんくらいですよ」

「そうなの?」

「はい。なんだか二人は似ている気がします」

 共通点を発見できた。暑がりなんて体質の人はたくさんいるのだろうが、それでも嬉しい。しかも、似ているだなんて。

「ねえ、どんなところが似てる?」

「優しいところです」

「トーガ君、よくわかってるね」

 肩をポンポンたたくと、誇らしそうに笑った。ゼノは優しい人なのだ。けれど、誰もその心に気づいてはいない。どんなにゼノは素敵なキャラクターなのだと言っても、誰も共感してくれなかった。

「こんなところに同志がいたなんて。嬉しいよ」

「よくわからないけど、僕も嬉しいです」

「他にいいところは?」

「小さな変化にも気づいてくれて、何かと気にかけてくれるところです」

「そうそう。さりげない優しさがいいんだよね」

「ふふ」

 トーガはおかしそうに私を見る。

「どうした?」

「いえ、なんでもありませんよ」

 何か面白いことでも言っただろうか。にやにやしながら私を見てくる。「行きますよ」とトーガが先に進み、理由は教えてもらえなかった。まあ、楽しそうならいいだろう。


 それにしても広すぎる。大きな広間を抜けた先には、どこまでも続いているように見える廊下。外から見た時は陰湿な空気を漂わせていたが、よく見ると細部にまで装飾がされていて綺麗だ。その細工を輝かせているのは、壁掛けの燭台で揺れている炎。そこにあるだけで目を奪われてしまうのは、ゼノの瞳の色と似ているからだろうか。揺らめくたびに、泣いているように思えてなんだか儚げにに見えた。その炎は道を示すように、徐々に廊下を照らしていく。まるで道案内をしてくれているよう。通り過ぎた場所は消えてしまうが、魔法使いになった気分でとてもいい。脇道にそれたら炎もついてきてくれるだろうか。来てくれるだろう。けれど、ゼノの困った顔が思い浮かんだのでやめておいた。

 ここは魅惑的な扉や廊下が沢山ある。それぞれ装飾やドアノブの形が違う扉や、行き先がいくつにも分かれた廊下。剣山のような氷で、行く手を塞がれた廊下もあった。


 そんな城内でも一体感があるように見えるのは、この絨毯のおかげだ。藍色の絨毯に銀色の刺繍。灰色の床や壁には青がよく馴染む。パッと見るだけでは暗い印象を持つのだが、じっくり観察するとその重厚感が見えてくる。壁の氷細工はすべてルーヴェルが作ったのだろうか。それともほかに職人がいるのか。どちらにせよ、かなりの凝り性だ。こんな細かいところまで削り形を浮き上がらせるなんて、どれほどの時間がかかるのだろう。感心しながら、一つ一つ見ているとトーガに背中を押された。

「約束の時間に遅れてしまいます」

「はーい」

 また時間があるときにゆっくり見せてもらうことにしよう。次があればの話だが。いったいこの先でどんなことが待ち受けているのだろう。恐ろしく思うが、すべてはゼノの未来のため。できるだけのことはしようと決意し、扉の前にたどり着いた。

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