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灰色の城

 トーガの笑顔で忘れかけていたが、私は今この世界で生き残れるかどうかの分かれ道へ近づいている。ルーヴェルたちに気に入られれば、力を貸してもらえるかもしれない。もし、目をつけられればゼノの未来が危うくなるだろう。

「もしかして、ここが目的地?」

 どうかそうではないと言ってくれ。そう願うも、トーガは無情にも頷いた。大きな氷の城。ファンタジーの世界ではもっとキラキラしていてもいいはずなのに、この城は灰色がかっており、透明度が低い。氷の都の城は透き通るような水色で、どこもかしこも眩いほどに輝いていた。氷ではあるものの、冷たさは感じずどこか心惹かれる景色だった。

 それなのに、ここは不気味な雰囲気が漂っている。吹雪のせいか恐ろしさを感じるし、体の震えが止まらない。一人で来いなんて言われなくてよかった。ここに来るのに慣れているのかトーガは氷の階段になんの躊躇いも見せずに登っていく。濁った氷とはいえ、下が少し透けている。

「ねえ、この階段壊れないよね?」

「大丈夫ですよ」

「ほんとに?」

「はい」

 そう言って、トーガは階段の上でぴょんぴょん飛び跳ねる。見てるだけでひやひやするのに、本人は楽しそう。あれだけ動いてびくともしないなら、大丈夫なのだろうか。いや、今はよくても私が通るときには少し溶けているかもしれない。それに、今のジャンプでヒビが入っていることも考えられる。恐ろしいが、これはきっとルーヴェルが作り出した氷。そう簡単に崩れたりしないだろう。

 意を決して一歩踏み出すも、片足を地面から離せないでいる。へっぴり腰になり、みっともない態勢になっているだろうが、動けない。

「早く来てください」

「行くから。ちゃんと行くから、引っ張らないで」

「そう言って、さっきから一歩しか進んでないじゃないですか」

「そうなんだけど」

 一旦手すりに掴まり、安心感を得る。この横殴りの吹雪では、飛ばされてしまいそうだ。もう少し風が止めばもう一歩進む勇気も沸いてくるのだが。そう思っていると、風がさらに強さを増して吹いてくる。風向きは先ほどとは打って変わって追い風。それはそれで困るのだが。背を押すように吹いてくる風で若干、体が浮いているように感じるのは気のせいだろうか。もう少し、手すりにしがみついていたいのだが、手袋に溶けた氷がしみ込んできて手の感覚が消えつつある。

 手袋を取り換えようと掴む手を緩めた瞬間、さらに強い風が吹き、気づけば浮いていた。もうどうにでもなれと風に身を任せると、風は門の前まで運んでくれた。さっきまでの暴風は何だったのだろうか。敵を寄せ付けないための仕掛けなのだろう。それはいいのだが、私が来ると分かっているのならもう少し考えてほしいものだ。


 橋のこちら側は物音ひとつしない。けれど、向こうに目を向けると少し先も見えないほどに荒れ狂っている。

「すごい場所だね」

「いつもこんな感じですよ」

「そうなんだ」

 慣れというものは時に恐ろしくなる。現代の世界ではありえないと思っていることでも、この世界ではあり得ることが沢山ある。これが日常なのだと言われれば、簡単に納得してしまう。ここにいる限り、私の中の常識はどんどん更新されていくのだろう。

 それにしても静かすぎる。大きな扉をくぐった先の廊下は、しんと静まり返っていた。

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