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修行始め

 人を羨む気持ちはよく分かる。だからこそ、時々自分の持っているものに、他の誰も持っていないものを見失わないようにしたい。見つけられないだけで、きっと誰もが持っているものだから。

「あなたはとっても強いのですね」

「君ほどではないよ」

 この世界で能力が使えないということは、とても大きなハンデになるだろう。それでも能力を持った人達と渡り合った。

 能力があれば楽だとは思わないが、無い人と比べればスタートラインが違う。常に誰かの背中を追いかけてきた。同じ速さで進んでは追いつけない。だから、人の何倍も時間と労力を費やして努力してきただろう。追い越してもなおその足を止めない。誰も追いつかない、さらに先を目指しているのだろう。


 追いつけないと諦めていた、過去の自分が恥ずかしい。努力すればいいって話ではない。報われないこともあるだろう。それでも、躓いたり立ち止まったりしながらも進む人は格好いいと思った。私もそうなれるだろうか。いや、ならなければならない。

「頑張ろうね」

「はい!」

「それで、入門試験などはあるのでしょうか?」

「そんなのないよ」

「でも、そんな簡単に弟子にして頂くのは申し訳ない気がして」

それはこちらのセリフだ。こんなに素敵な人に弟子にしてほしいと言ってもらえるなんて、光栄だ。彼にがっかりされないような生き方をしなければ。

「修行はいつから始めますか?まずは、自主練をしてからの方がいいでしょうか?」

「そうだな。とりあえず、案内を終わらせてもらいたいな」

「そうでした。早く終わらせましょう」

 宿題を終わらせて、早く遊びに行きたい子供のようだ。どんな修行内容にしようか。運動神経も体力も申し分ない。何をすれば強くなるだろう。この世界で能力が使えず、困ったことはやはり戦闘力。みんな、何かしらの防御や攻撃方法がある。その中で、私たちはいわば丸腰状態。やるべきことは決まった。


 それにしても、トーガはなかなかのご陽気の様子。社中の幹部達が集まる場所に行くのに緊張しないのだろうか。そこにはもちろんルーヴェルもいるだろう。噂に過ぎないが、ルーヴェルも警戒している幹部が2人いるそうだ。そんな場所に向かっているのに、よくもまあ鼻歌なんて歌いながら行けるものだ。

 どんどん、辺りが暗く寒くなってくる。さすが八寒の名がついているだけある。冷たいのに、肌が焼けてしまうような痛み。マフラーと手袋、厚手のコートを身に付けても寒さが増すばかり。

「トーガ君も使って」

「大丈夫です」

 見るからに大丈夫ではない。震えてはいないが、髪が凍り付いている。

「慣れていますから」

「もしかしてルーヴェル?」

「まあ、そんなところです。まあ、これも修行です」

 ルーヴェルは機嫌が悪くなると、すぐ吹雪かせるからな。それに巻き込まれているのだろう。修行か必要なのはルーヴェルの方ではないだろうか。彼の強さは圧倒的なのだろうが、忍耐力に難ありだ。

「僕は強くなるんです」

「いや、寒いものは寒いから」

「でも、強くなるために」

「風邪引いたら修行ができなくなるよ」

 しばし考えた後修行中止避けたいようで、私とお揃いのコート一式を身に付けた。

「これも魔法の力ですか?」

「そうだね」

「すごいなー」

 「君も出来るよ」なんて言えたらどんなによかったか。可能性はゼロではないのだろうが、限りなく低い。無責任なことは言えない。何か気の利いた言葉はないか。

「僕、頑張りますよ」

「うん、一緒に強くなろう」

「はい」

 変に気を遣う必要はなかった。真っ直ぐな人だから、こちらも真っ直ぐぶつかればちゃんと伝わるから。

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