兄弟第一号
ゼノが帰った後、素振りを100回追加した。その後、彼の描いた絵をどうしようかと考えながら眠ってしまった。しかし、朝起きたとき、とてもいいことを思いついた。すぐさま外へ行き、箱をゆっくりとどかした。ゼノの絵は、綺麗に残っている。これをアクリル板に吸着させて、裏から重厚感のある板で挟んだら出来上がり。
持ち上げると、中の砂はしっかりくっついて形を保っている。これなら壁に飾れそうだ。空に掲げてみると、少しだけ光が差し込んでくる。ステンドグラス風にしてもよかったかもしれない。また、絵を描いてもらおう。
「あなたがエトさんですよね」
がしゃん
音もなく現れたのは、新しい登場人物。暗い色をした服に全身包まれている。フードもしっかり被っているので、まるで、てるてる坊主みたいだ。
じっとこちらの動きを見る様は、ゼノに似ていた。少しでも動いたら、攻撃されそうな勢い。だが、今はそれどころではない。ゼノの貴重な絵画が大きな音をたてて、地面に還ってしまった。じっと黙っていられるわけがない。
「ゼノ君の絵がー」
「あ、あの」
「最初の最高傑作が……」
「僕、ごめんなさい」
「いや、大丈夫です。大丈夫」
「でも……」
これは私の不注意。急に声をかけられたからといって、大切なものは手放したりしてはいけない。そう自分を納得させるが、彼にも非はあると思う。声をかける前に、咳払いなり足音を少したてるなりしてもらいたかった。
だが、まあいい。知らぬ人に説教出来るほどの元気はない。だか、今後のために名前順は聞いておくか。
「それで、君は?」
「名乗る名は持ち合わせていない」
「もしかして、トーガくん?」
「な、なんで、僕の名を」
慌ててフードを深く被り、下を向く。最初の威圧的な態度は一瞬にして、剥がれ落ちた。逃げはしないが、そわそわとしている。想像していたよりも、なんというか落ち着きがない。名前だけしか登場していなかった分、変な期待感を持っていたのかもしれない。陰の狩人なんて二つ名があった。だから、豹やチーターの様な佇まいだと、思い込んでいた。それはこちらが勝手に期待しただけ。想像とは違ったが、がっかりはしていない。むしろ、可愛らしいと思ってしまった。それでも彼に対して失礼なことをしたのは違いない。驚かせたことに対するフォローはしておこう。
「ただの感だよ。大丈夫。トーガくんの偵察能力はすごいから」
「それもバレていたのか」
「いや、私が特殊なだけだから。自信持って」
「あなたは特殊能力を持っているのですか?」
「ええっと。特殊というか、私みんなみたいに能力が使えないから。他で補ってる感じかな」
「すごい」
そんなキラキラした目で見ないでほしい。この世界では眩しすぎて仕方ない。なんだろう、この気持ちは。ゼノに対するものとはまた違う好意。そう、兄弟みたいな感覚だ。
外見だけだったら、年上に見えたが案外若いのだろうか。それにしても、最初に見せていた狩人の目は、見る影もない。ただただ、カッコいいものに憧れる少年のよう。弟子入りしたいなんて言われたらどうしよう。
「弟子にしてください」
やっぱりそうきた。決して嫌なわけではない。ただ、教えられることがないだけ。比喩ではなく、本当に私は特殊な存在。だから、このことは大っぴらにしたくなかったのだが、自分から言ってしまった。まさか、こんなに食いつくなんて思ってもみなかった。




