特別
どうせ届かないと諦めていれば、何も変わらなかった。伝え続けてよかった。そう出なければ、こんな言葉聞けなかった。きっとゼノは自分を大切に思っていない。けれど、その思いを知らないわけではないはず。
彼だって、何かと私を気にかけてくれる優しさがある。その優しさをほんの少しでも自分に向けてくれたら。そうすることができたら、見える景色は変わるはず。いつかきっとそんな日が来る。だから、それまで足りない分の優しさを私が向け続けることにしよう。
自分で満たすことが出来ないのなら、誰かが注げばいい。その心が暖かさで満たされるまで、溢れも零れても。
「ねえ、ゼノ君」
「なんだ」
「私はずっとここにいるからね」
「なあ、あんたは何で俺に構う?」
「何でって」
「誰にでもそうなのか?」
「どうだろう。ゼノ君はもちろん、私の特別。でも、助けを求めている人は見過ごせない」
これはゼノが求めている答えではなかったようだ。確かにゼノは私が一番に優先する人。それでも、そのほかの人を見ない振り出来るほど冷酷にはなれない。
「でも、ゼノ君か誰かを選ばなきゃならないなら、迷わず君を選ぶよ」
「そうか」
交わった視線はまた、通り過ぎてしまった。なんと言うのが正解だったのだろう。言葉を伝えるというのはほんとうに難しい。言葉にしても、この気持ちのまま届かない。
受け取り方次第で、良くも悪くも変わってしまう。だからといって、ゼノを責めるわけではない。この想いが届くように、言葉だけではなく行動で示していくつもりだ。
「お茶飲んでいく?」
「いや、いい。あんた、忙しいだろ」
明日のことは、ゼノも知っているのだろう。それで様子を見にきてくれたのだろうか。いつもなら意味もなく長居するのに、今日はあっさり帰る。
ずっと窓際の椅子にいるのが当たり前になっていたから、少し寂しい。
窓を開け見送っていると、ゼノが何か思い出したように振り向いた。
「ああ、そうだ」
「どうしたの?」
「ルーヴェルにはあまり関わるなよ」
「ゼノ君の仲間でしよ?」
「さあな。同じ目的がある人間を仲間と呼ぶならそうなんだろうが」
「そっか」
ルーヴェルは、唯一の理解者と言っても過言ではないくらいに親しい存在価値だと思っていたのだが。そうではないらしい。似ている部分が多いように見える二人。だからこそ反発してしまうのだろうか。
言葉は少なくとも、背中を任せられる。そんな関係だったらいいのに。きっと二人が手を組めば無敵にも思える力を発揮できるはず。
「ゼノ君はルーヴェルが嫌い?」
「ああ。大嫌いだ」
なにかいざこざがあったのだろうか。私の知る限りでは、大した衝突はなかった。顔を合わせれば、喧嘩腰の態度をとる彼ら。それでも、どこかには信頼が潜んでいると思ったのだが。
大嫌いと本人の口から聞いたなら、そうなのだろう。ゼノは誰彼構わず、つんけんした態度。特にルーヴェルに対しては嫌悪感丸出しだ。
「とにかく、あいつとは距離をとれよ。分かったな」
「うん」
納得していない私に釘を刺すように、「気を付けろよ」と言って帰って行った。ゼノはかなりルーヴェルのことが苦手なようだ。きっかけさえあれば、仲良くなれると思うの。だが、私にとって最重要課題は、ゼノの幸せだ。それが脅かされないように、ひとまず様子を見ることにしよう。




