死神と女神
いつも見ていたはずなのに、こんなにも違う。伏し目がちで睫毛がその瞳の色を隠していた。いつも地面に目をやり、視線が合うことはあまりなかった。けれど、少しずつその瞳が私を写すようになった。
目が合えばすぐに逸らされるのはかわりないのだが。私が視界に入り込まなくても、あちらから見てくれるのは嬉しくて仕方ない。
そうなのだけど、まじまじと見られるのはなんだか居心地が悪い。いや、悪くはない。ただ心臓に悪い。
推しは一方的に見る存在であって、見られるという概念がない。うっすら目が合うだけでもドキドキするのに。
「あの、ゼノ君?」
「悪い」
「いや、悪くはないよ」
「あんたは本当に……」
「ん?」
「いや。最初に見た時から、そう思ってた」
ゼノにとって金棒は、鬼と結びつかないようだ。おそらくこの世界には鬼はいない。だったら、そうなってもおかしくはないのだろう。それでも金棒を持った女神はどんな感じなのだろう。勝手なイメージだと、虎柄のドレスに長い金髪。そして頭に二本の角。童話の中の鬼に引っ張られ過ぎだが、それ以外思い浮かばない。
「その女神の銅像ってどんな感じなの?」
「そうだな」
ゼノは地面に落ちていた枝で、女神とおぼしき絵を描いてくれた。顔の輪郭まではよかった。問題はその他の部分全て。頭から腕が生えていないだけましなのだが、かなり独特なタッチだ。
決して下手ではない。下手に見えるけど、これはそういう絵なのだ。額縁に入れたらきっと映えるだろう。このまま移動させることは出来ないだろうか。どうにかして、直筆の絵画を家に持ち帰りたいのだが。とりあえず、風で消されないように箱をかぶせておこう。ゼノがこの世に残したものを一つ残らず取り逃したくない。たった一瞬の表情でさえも、大切な宝物になるから。
若干引き気味のゼノはさておき、一つ気になるのが女神の顔だ。何かを叫んでいるような険しい表情。いったい何と戦っているのだろう。箱を少し浮かせて、もう一度見てみる。
「この女神って、どんな神様なの?」
「女神は闇夜のような瞳と髪を持っていて、死の間際に現れ側にいてくれる」
「死神みたいなもの?」
「そう呼ぶ人もいるな」
死神なら、尚更優しい顔を思い浮かべてしまうのだが。生者をあの世へ連れて行く役目。色合いは私の中の死神と一致するのだが。どうも気にかかる。
「この女神は、どうしてこんな顔してるの?」
「さあな。敵でも追い払ってんじゃねえか」
「守ってくれてるってことか。素敵な話だね」
「そうだな。小さい頃は、そんな話を信じてた」
「そう」
「最後くらいは誰かに見て欲しかったのかもな」
つい口から零れた本音。それは、彼の人生を物語っていた。「独りは慣れた」と、いつかの場面で言っていた。見つけた居場所は、彼の心を癒してはくれなかったのだろうか。
「まあ。安らかな最期を迎えられるとは思ってねえが」
散々人から奪い壊してきたゼノ。その事実は変えられない。それでも私にとってゼノは多くを与えてくれた人。その事実も変わらない。私の大好きな人。だから、なんと言われようよ私は彼の味方でいる。
「女神にはなれないけど、ゼノ君の側にいるよ」
「そうかよ」
「私、本気だよ」
「分かってる。あんたなら、本当にそうしてくれるんだろうな」
ゼノは少しずつ変わっている。今までなら、私の言葉を受け取ってくれなかった。けれど、今日初めて想いが届いた気がした。




