金棒の女神
498回目の素振りが終わった頃、ゼノの姿が見えた。あと少しだから、話しかけるのは少し後にしてくれと思うも、彼はにやりと笑う。
振り上げた金棒はゼノの指先でとてつもないほど重たくなった。限界寸前だった私の腕は、ぷるぷるした後脱力した。地面にのめり込む金棒を見て、ゼノはあ然としていた。
「あんた、一体どんだけ力あるんだ」
「これは違うんだよ。見間違いだから」
えぐれた地面を足で平らにし、金棒を収納する。これは最近習得した技で、腰に巻いたケースに、納刀する要領で入れる。だいぶ上手く出来るようになった。慣れるまでは大変だった。なかなか金棒を縮めることができず、何度ケースを破ったことか。
おそらくイメージすれば何もない場所からでも出現させることはできる。今までがそうだった。訳も分からす、出したりしまったりしていた。けれど、いざというとき出せなければ意味がない。そう思い編み出した技だ。この世界には不相応かもしれないが、侍みたいで気に入っている。
実力の成果を確認している場合ではない。ゼノに力持ちだと思われてしまった。彼の前では守られる感じの系統でいきたかったのに。今更そんなこと思っても遅いのだが。そもそも最初に出会った時点で、その路線は諦めるべきだった。
それでも、好きな人の前では、自分史上いちばん可愛くありたいもの。だから、最近は気を付けていたのに。とはいえ、マッチョのように筋肉があるわけではない。この世界の基準がおかしい。もしくは、私の周りだけ重力が機能していないのだろう。そうでなければ、こんな金棒振り回せない。
「前から思ってたけど」
「なに?」
少し言いづらそうにして、口を開く。
「あんた、金棒似合うよな」
それはいったいどういう意味なのだろう。褒められているのか。いや、遠回しにいかついと言われているのか。鬼みたいなんて思われていたらどうしよう。そんなの可愛いから離れてしまう。
「あの、私、リボンとかハートとか好きで」
「は?」
「マカロンも好きだよ。あとは、ピンクとかフリルとか。苺ケーキも」
「急にどうした」
「いや、なんというか。金棒ってあんまり可愛くないなって思って」
「可愛くないと駄目なのか?」
「まあ、そうあれたらいいなって思ってるけど」
「俺には可愛さは分からねぇよ」
「それでもね」
相手に伝わらなくても、自分に自信が持てるようなお呪いのようなもの。だから、ふんだんにまといたい。
「もしかして、さっきの言葉。気に障ったか?」
「いや、大丈夫よ。もともと体は頑丈だから」
平均身長よりも高かった事もあり。昔からがたいが良いと言われていた。水泳なんか習うんじゃなかった。お陰でリュックはずれることはないのだが。それ以外のメリットはあまり感じない。
もう一度昔に戻ってやり直せればと思うが、今の私にはならない。そしてゼノにも出会うことはなかっただろう。そして、こんなにも好きになんてならなかった。だから、これでいい。今の自分を受け止めよう。
「女神みたいだって思ったんだ」
「金棒持ってるのに?」
「ああ。あんだ金棒の女神知らねえのか?」
「初耳ですけど」
「俺の故郷では有名だったんだけどな」
「だいぶ物騒な女神様だね」
「そうかもな。だが、勇ましく闘う銅像は綺麗だと思っていた」
ゼノの目が初めて私を捉えた気がした。空よりも海よりも綺麗な青だった。




