表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

29/38

金棒の女神

 498回目の素振りが終わった頃、ゼノの姿が見えた。あと少しだから、話しかけるのは少し後にしてくれと思うも、彼はにやりと笑う。

 振り上げた金棒はゼノの指先でとてつもないほど重たくなった。限界寸前だった私の腕は、ぷるぷるした後脱力した。地面にのめり込む金棒を見て、ゼノはあ然としていた。

「あんた、一体どんだけ力あるんだ」

「これは違うんだよ。見間違いだから」

 えぐれた地面を足で平らにし、金棒を収納する。これは最近習得した技で、腰に巻いたケースに、納刀する要領で入れる。だいぶ上手く出来るようになった。慣れるまでは大変だった。なかなか金棒を縮めることができず、何度ケースを破ったことか。

 おそらくイメージすれば何もない場所からでも出現させることはできる。今までがそうだった。訳も分からす、出したりしまったりしていた。けれど、いざというとき出せなければ意味がない。そう思い編み出した技だ。この世界には不相応かもしれないが、侍みたいで気に入っている。


 実力の成果を確認している場合ではない。ゼノに力持ちだと思われてしまった。彼の前では守られる感じの系統でいきたかったのに。今更そんなこと思っても遅いのだが。そもそも最初に出会った時点で、その路線は諦めるべきだった。

 それでも、好きな人の前では、自分史上いちばん可愛くありたいもの。だから、最近は気を付けていたのに。とはいえ、マッチョのように筋肉があるわけではない。この世界の基準がおかしい。もしくは、私の周りだけ重力が機能していないのだろう。そうでなければ、こんな金棒振り回せない。

「前から思ってたけど」

「なに?」

 少し言いづらそうにして、口を開く。

「あんた、金棒似合うよな」

 それはいったいどういう意味なのだろう。褒められているのか。いや、遠回しにいかついと言われているのか。鬼みたいなんて思われていたらどうしよう。そんなの可愛いから離れてしまう。

「あの、私、リボンとかハートとか好きで」

「は?」

「マカロンも好きだよ。あとは、ピンクとかフリルとか。苺ケーキも」

「急にどうした」

「いや、なんというか。金棒ってあんまり可愛くないなって思って」

「可愛くないと駄目なのか?」

「まあ、そうあれたらいいなって思ってるけど」

「俺には可愛さは分からねぇよ」

「それでもね」

 相手に伝わらなくても、自分に自信が持てるようなお呪い(おまじない)のようなもの。だから、ふんだんにまといたい。

「もしかして、さっきの言葉。気に障ったか?」

「いや、大丈夫よ。もともと体は頑丈だから」

 平均身長よりも高かった事もあり。昔からがたいが良いと言われていた。水泳なんか習うんじゃなかった。お陰でリュックはずれることはないのだが。それ以外のメリットはあまり感じない。

 もう一度昔に戻ってやり直せればと思うが、今の私にはならない。そしてゼノにも出会うことはなかっただろう。そして、こんなにも好きになんてならなかった。だから、これでいい。今の自分を受け止めよう。

「女神みたいだって思ったんだ」

「金棒持ってるのに?」

「ああ。あんだ金棒の女神知らねえのか?」

「初耳ですけど」

「俺の故郷では有名だったんだけどな」

「だいぶ物騒な女神様だね」

「そうかもな。だが、勇ましく闘う銅像は綺麗だと思っていた」

 ゼノの目が初めて私を捉えた気がした。空よりも海よりも綺麗な青だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ