雪の紋
じっとルーヴェルの顔を見ていると、どんどん眉間にしわがよってくる。あまりにも珍しいことだったので、つい見過ぎてしまった。ゼノにも、よくこの顔をされる。無意識とはいえやりすぎたら、嫌われてしまう。気をつけなければ。
「忘れてた。これ」
「なに?」
ルーヴェルに手渡された封筒。八寒社中の紋様が印された蝋で封をされている。黒の蝋に銀色の複雑な雪の結晶の模様が印されている。光に当たる角度で、水色に見えたりピンクにも見えたり。色を付けたのではなく、熱い蝋にも溶けない本物の氷。これは集会への誘いだろうか。
何もしていないのにもう仲間に認定されているなんて。騙されているのか。でも、これはルーヴェルにしか出来ないことだ。そして目の前に本人がいる。
一旦確認してみよう。本物のなら、開封するとすぐに雪が蒸発して消える。おそるおそる蝋の部分を指で剥がしてみる。すると雪の結晶が消え、私の名前が浮き上がった。
嬉しさのあまり、叫びだしたい衝動を抑えようと大きく息を吸い込んだ。しかし、それだけでは足りない。声は抑えられたが、飛び跳ねてしまいそうになる。とりあえず空でも眺めていよう。
「おい」
「ちょっとだけ待って」
魔法のような現象は、いくつになってもいいものだ。小さい頃の魔法使いになる夢が少しだけ叶った気がする。箒で空を飛んだり、大鍋で魔法薬を作ったり。まだまだやりたいことがたくさんある。ここでならなんでも出来るかもしれない。いろいろ空想を膨らませていると、ため息が聞こえてきた。
「さっさと開けろよ」
「そうだった」
なぜ空を見上げたのか忘れていた。
Dear エト
正式に八寒社中に迎え入れることとした。それに伴い他の幹部共の合意を得るため、お前の実力を披露してもらう。
明日、トーガを向かわせる。奴についてここまで来い。
いろいろと混乱して訳が分からない。これだけの文字数なのに情報量が多い。トーガが姿を現すなんて。そして、幹部はまだ物語には出てきていない。そもそもその存在すら語られていなかったのに。
とりあえずルーヴェルに確認しよう。
「あの、これって」
手紙から顔を上げると、そこにはもう誰もいなかった。質問が来ると分かってて逃げたな。彼はそういうところがある。聡いといえば聞こえが言いが、面倒事からするりと逃げてしまう。それが瞬時に察知出来るのがすごいとは思うが。それに、読ませるところまでしっかり見届けてから、居なくなるところ。抜け目ないなと感心する。
まあいい。それがルーヴェルのよさだ。リーダーであるにもかかわらず、のらりくらりしていて、つかみ所がない。けれどあの従いたくなるほどのカリスマ性。恐怖で押さえつけている感じはなく、むしろどこか親しみを覚えてしまうような。生まれ持ったものなのか。それとも過去から掴み取ったものなのか分からないが、それは彼の武器になるだろう。
仲間思いの一面があるので、つい絆されてしまいそう。まあ、怖いのは変わりないのだが。
けれど、仲間になれれば強い力になってくれるだろう。そのために、少しでも鍛えておかなければ。取りあえず素振り500回くらいしておこう。




