明日の夢
今ここにある時間を手放したくはないのだが、ずっとこのままでいるわけにはいかない。でもこのまま何も起こらなければ、ずっと一緒にいられるのでは。そんなこと考えるが、すぐにその夢は打ち砕かれる。
この世界は必ずゼノを奪いに来る。その時がいつ来てもいいように、備えておかなければ。とにかく私の戦闘力を上げるのが1番いいだろう。
ゼノが帰ってからも、素振りを繰り返す。的を造っては打ち砕き、また新しいものを造る。少しずつ腕は上がってきたのだが、これが通用するのか分からない。
努力の方法が間違っていたらと、不安になるも何もしないよりはましだろう。
「お前、暇なのか?」
金棒素振りが日課になった頃、珍しくルーヴェルが来た。
「暇じゃないですけど」
「毎日毎日飽きないもんだな」
「なんで知ってるの?」
大抵はゼノが来る前か、帰った後。だから、彼が言うはずない。もとより、この二人は八寒社中のツートップと言われているが、仲が悪い。大事な報告もしないくらいだ。
だとしたら、報告しているのはあの人だ。
「そうだった」
トーガに監視されていたのか。近くに人が来たら分かるように仕掛けをしていたのに。さすが隠密行動が得意なだけある。警戒していても分からない。まあ、彼に見られていることを前提に動いていたから問題はないが。
ただ、アインと一緒に居るところはあまり見られたくはない。直接敵対している訳ではないが、何かしらの因縁はあるよう。もう少し詳しい話が出てからこっちに来たかった。
ルーヴェルは氷を操る。そしてアインも。なにも関係がないなんてことはないだろう。互いに認識しているかは分からないが、近付かないに越したことはない。
鉢合わせしないかひやひやするが、アインも馬鹿ではない。誰かが居る時に出てきたりはしないだろう。
「それで、何の御用でしょうか?」
「お前、本当変なやつだよな」
「そんなこと言いに来たの?」
暇なのはどっちの方だと言いたいが、起こったら面倒くさい。そこら中に氷漬けにされたらたまったまもんじゃない。まあ、炎に包まれるよりはましかもしれないが。
今日はゼノは来ないのだろうか。彼の隣は暖かくて心地よい。常に日だまりの中にいるような感じ。冬になる少し前の、冷たい空気の中に感じる太陽の暖かさみたいだ。
それに慣れていたから、ルーヴェルの近くは少し肌寒い。ここは季節など存在しない世界。というより、国ごとが季節になっている。もちろん氷河の都は冬。業火の森は夏で、青嵐の丘は春と秋。
青嵐の丘にほど近いこの家は、過ごしやすい気候なのだか、訪問する人によって温度が変わる。最近は冷えることが多かったから、そろそろゼノに会いたい。
ルーヴェルの近くはとても寒い。人を近づけさせないような、突き刺さる冷気。なんだか、重苦しい気持ちになる。彼の何も読み取らせてくれない表情も相まって、心まで冷えてしまいそう。
「あの、用がないなら帰って頂いても……」
ルーヴェルがいては、ゼノが寄りつかなくなる。それに、どこかにアインも潜んでいるかもしれないし、トーガから監視されている可能性もある。ちらっと外に目をやると、鼻で笑われた。
「そんなにトーガが気になるか?」
「どんな方なのか会ってみたいなとは思うけど」
「機会があればな。あいつは人が嫌いだから」
いいことを聞いた。知らない情報を得ることができるのは楽しい。けれど、まだ会うことは叶わないだろう。それは置いておいて、今笑ったよな。馬鹿にされている感じがしたが、確かに笑った。あのルーヴェルが、ゼノと共に無表情コンビと言われていたあの彼が。主人公目線では分からないことはまだまだありそうだ。




