炎と氷
アインは顔色ひとつ変えずに、炎を手で掴むと氷で覆ってしまった。2人の間には、ピリピリした空気が流れた。引き離したいが、まだ雨は止みそうにない。やはり本当に壁を作った方がいいのだろうか。
雨の音だけが響く部屋。ゼノは肘をつき、窓の外を見ている。アインはというと、私の上に雪を降らせたり氷の置物を造ったり。その度にゼノが舌打ちするのだが、アインは気にしていない様子。さっき燃やされたばかりなのに、懲りないものだ。
アインはこれからどうするつもりなのだろう。ここへ来られてはゼノの身が危険にさらされる。彼にそのつもりがなくても、一度起こったことはまた起こりえる。
もともと会うことのなかったふたり。必要以上に一緒に居ることはよくないかもしれない。
「アイン」
「なんだい?」
さっきとは裏腹に眩しい笑顔。これも強制されているもとだと思ったら胸が痛くなった。けれど、私の中の優先順位はゼノが一番だ。アインには悪いか仕方がない。
「私が街まで送るから、帰ってもらえないかな?」
「送りは結構だよ。もうすぐ雨は止むだろうから」
案外素直に帰ってくれた。何かと理由をつけてここに居座るのかと思っていたから、拍子抜けした。
雨の中、ひとり歩く姿は寂しげだった。一応傘は渡しておいたから、濡れずに帰れると思うが。それでも、その背中が見えなくなるまで気になってしまう。窓から見ていると、アインが振り返り大きく手を振った。
雨降り空の元でもあんなにキラキラしているなんて。振り返せるはずもなくただ見ていると、満足したのか森の中へ消えていった。
ゼノの敵でなければこんな風にしなくてすむのに。あんなに嫌いだった私の敵。少し心が痛んだ。
「おい」
ゼノは乱暴にカーテンを閉めて、私を見下ろしている。
「どうしたの?」
「あんたはあの男と親しいのか?」
ゼノからの質問に少し驚いた。もしやこれはやきもちなのか。ゼノはそんなことしない。やきもちなんてそんな。
ツンツンしているゼノが、こんなこと聞いてくるなんて。いや、ただアインが嫌いなだけか。
「なんでそう思ったの?」
「あの時、逃がしたろ。それに、今日も」
ここへ来て最初に出会った時か。確かにアインにとどめを刺さなかった。あの時はその必要が無いと思ったから。でも、この未来を知っていてもきっと見逃していただろう。彼がいなくても、ゼノの敵はそこら中にいるから。
私の世界はゼノで出来ている。だから、それ以外には興味が無いのに。確かに、他の人に同情したりすることはあるが、それは好意ではない。
「大丈夫。ゼノ君がいちばんだよ」
「そ、そんなこと聞いてねぇよ」
案外表情が豊かだな。もともとそうだったのか、それとも変わったのか。分からないけれど、ゼノが生きている国はこんなに素晴らしい。どうかいつまでも、ゼノが存在するこの世界が続いて欲しいと思った。




