オーロラの氷
ゼノの宿敵でなければ、こんな思いしなくてよかったのに。やはり、キャラ投票一番人気なだけある。どの瞬間を切り取っても見ても美しい。まあ、私の中の一位はいつでもゼノなのだが。
とりあえず玄関先まで来てもらったが、ここからどうしよう。出来ればゼノとアインの間に壁1枚くらいはないと心配だ。ゼノは今にもアインに飛びかかりそうな勢いで、睨み付けている。
それにしても、その冷たい視線もいい。対象が私じゃなければの話だが。もし、そんな目で見られたら1年ほど落ち込むかもしれない。
アインはよく耐えている。いや、気付いていないだけなのか。のんきな顔して笑っている。油断させようとしているのだろうか。
「あの、体の後半分が雨に打たれているのだけど、少し前に行ってもいいかい?」
「あ、うん」
後に下がり、アインが敷居をまたごうとすると、ゼノが姿勢を低くした。それなのにアインはぼんやりしている。ゼノの殺気に気付かないのだろうか。
なんだか犬と猫のようだ。動物の耳が生えているグッズが出るなら、ぜったいそうだ。ゼノは黒猫で、アインは大型犬。想像がつく。
「この間は済まなかったね」
ゼノに向かって話しかけるが、返事をするはずもなく様子をうかがっている。まあ、殺されかけた相手に話しかけられても返事のしようがないだろう。
氷のように透き通った長い髪。明かりに当たると、七色に光るオーロラに似ている。その目も同じように煌めいていた。それなのにこんなにも緩い雰囲気だっただろうか。もう少し凜としていて、氷点下の中にいるような冷たい表情だった気がする。
「そんな感じだったっけ?」
「ああ、君が教えてくれたんだ。本当の僕を」
「そんなの教えてないけど」
「いいや。君が名前を呼んでくれた時、僕はなりたい僕を見つけたんだ」
「そうですか」
「君が僕の名を呼んでくれなかったら、僕はアインとしては生きられなかっただろう。だから、感謝しているんだよ」
まるで別人になったかのよう。こんなにも人間味のある人はだったとは知らなかった。彼の立場上、そうならざるを得なかったのだろう。
感情を捨てれば、痛みや悲しみは少なくて済むのに。けれど、その先に隠れているほんの少しの温かい気持ち。それは時にどんな悲劇をも凌駕する。だから、逃げ出したくなっても立ち止まる勇気が出てくる。
ゼノと出会った瞬間、私はこの時のために生きてたのだと思った。しんどいことや辛いことがあってたからこそ、好きになれた。少しでも違う私だった、きっとこんなにも好きになっていなかった。だから、私は大嫌いだった過去の私も好きになれた。
「君も同じだろう?」
「……」
「そうだ。自己紹介がまだだったね。僕はアイン。好きな人はこのお嬢さんだ。そういえば、君の名前も聞いていなかったね」
こんなにアインが話すシーンはあんまり見たことが無い。爽やかクールで通っていたはずなのだが。私が知らなかっただけで、アイン好きの間では常識なのだろうか。
「教えてくれないのかい?」
「一応敵なので」
「それなら、仲良くなれるまで気長に待つことにするよ。君もね」
ゼノに向かって笑いかける。多くの人なら、この笑顔に絆されていたかもしれない。けれど、ゼノがそう簡単に警戒を解くはずがない。その表情はますます険しくなるばかり。敵味方というよりも、性格的な問題で合わないのだろう。
「とりあえず、ゼノ君に話しかけるのは止めてもらってもいいかな」
「おや、僕としたことが。友人を作った経験がなくてね。失礼した」
さりげなく、暗い過去を口にしないでほしい。アインの子供の頃の回想は少しだけ描かれていた。休む間もなく訓練に明け暮れ、厳しい父親の元自由などなかった。着る服や話し方、笑い声さえも決められていた。きっとそれはほんの一部だろう。それなのに何でもないような口ぶりだからこそ、悲しかった。




