重いもの
アインには寄り添い歩く人がいるのだろうか。私の知っている物語では、彼がひとたび街を歩けば、歓声があがり、花や食べ物を手渡される。誰からも好かれていて、その周りにはいつも人がいた。それなのに、見せる笑顔はどこかぎこちなかった。多くの人から好かれているが、アイン自身が心を開いていないような感じ。
もう少し優しい言い方をした方がよかっただろうか。思い返せば、さっきのアインからは悪意を感じなかった。感情にまかせて冷たくしてしまった事に後悔した。
でも、あれが最善だった。もう、一瞬たりとも油断できない。特にアインは。それでも考えてしまう。
卑怯な手は使わず、真っ正面からぶつかる戦い方を好んでいた。そんな姿に読者は勇気をもらっていた。その彼が、奇襲など仕掛けてくるだろうか。
最初にゼノに攻撃した時、そこにはアインの意思があった。だが、あの時は違和感があった。彼は自分のしたことが分からないといった様子だったのを覚えている。
そして、この前来たときはゼノに攻撃するつもりはないと言った。もし、ゼノの命を奪ったのがアインではなく、この世界だとしたら。時の番人に操られていたのなら。きっと、いつかゼノ以外の人は皆敵になる。
私は抗い続けなければならないのだろう。戦う準備は出来ている。だからせめて、今だけは、彼らに優しい夢を見せて欲しい。
だが、そんなに甘くない。
「あんた、弱すきねぇか」
「え?」
金棒を手に素振りをする私の姿を見て、なんとも形容しがたい顔をするゼノ。確かに野球なんてしたことないし、筋肉もない。重たい金棒を振り回す度に、立ち位置が変わりゼノから遠ざかっていた。
「そもそも、それはなんだ?」
「金棒だよ」
「当たり前のように言われても、見たことねぇよ」
この世界には鬼に金棒と言う言葉はないのだろうか。こんなに強い武器なのに知らないなんて。今度ゼノの分も作ってみような。炎をまとった金棒は威力が上がりそうだ。
だが、ゼノが金棒を振り回すのは想像つかない。やはり金棒は和風ファンタジーに限る。この世界で流行らないようにと願った。
ここはある程度想像が形になる世界。きっと出来るはず。私は大きな鬼だと言い聞かせてみた。そして、一振りしてみると先ほどよりはいい感じに風を切る音がした。
この調子で練習すれば、小枝のように扱えるかもしれない。その頃には本当に鬼になっていたらどうしよう。一応、角が生えていないか確認した。
「なあ」
「どうしたの?」
「あんたは何でそんなに必死になる?」
「ゼノ君が好きだから」
ゼノは目をそらし、地に視線を向けた。私の気持ちは重かっただろうか。好意を他人に向けたことがあまりなかったものだから、調節を間違えたかもしれない。
気持ち悪いって、怖いって思われたかな。一方的な想いは、時に歪んでしまう。強すぎる気持ちは負担になるかもしれない。ゼノへの想いはきっと、自分では持てないくらいに重いから。
それでも、大切だと思う気持ちは変わらない。
「大切だから、守りたいんだ」
「なんでそんな風に言える?」
好きなものを好きと言えるまで、時間がかかった。今だって少し怖い。でも、見ない振りしていても心の中で大きくなるばかりで苦しかった。
なりたい自分に、笑って生きられるように生きる。そう教えてくれたのはゼノだった。だから、私は好きを抑えずに言えるようになった。
それがこんなにも幸せなことだなんで、知らなくて。まるで生まれ変わったように楽しくて仕方なかった。




