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怖いボス

 やはりラスボスと見込んだだけある。アインと対峙した際には感じなかった悍ましさ。一足踏み込めば、もう戻れないと思わされてしまう恐怖。

 まだ、そこまでの活動は見せていないものの、注目度は高かった。いずれどこかで展開を大きく変えてしまうと。

 そんな人の要求を断ればどうなることか。拒否権は与えられないだろうが、全力で拒否したい。

「それで、要求っていうのは?」

「俺達の仲間になれ」

「それって、八寒社中に入れってこと?」

「知ってるのか。なら話は早い」

「逆に入っていいんですか?入るのが激ムズと言われているルーヴェル創設の八寒の仲間になれるんですか?入るならどこの部隊ですか?できればゼノ君と一緒がいいんだけど」

 言い終わってはっとした。ルーヴェルは、まるでおかしなものを見るような顔をしていた。少し困ったような眉は彼の中に残っている幼さが見え隠れしている。この顔の缶バッジが発売されれば、かなりのファンが増えるだろう。


 もともと好きなキャラではあったが、こういった一面を見てしまうと一気に引き込まれてしまう。グッズが発売されない世界でよかった。過去の物まで買い漁ってしまうところだった。ゼノが写っているものしか買わないと決めているのに。

「お前、ほんとに変わったやつなんだな」

 ルーヴェルの声に我に返った。会ったのは初めてのはず。ゼノが私のことを話していたとは考えにくい。

「もしかして、トーガくんいます?」

「なんで知ってる?」

「あー、それはですね」

 なんて言って誤魔化そう。トーガはルーヴェルが一番信頼している人。昔からの馴染みだという話があった。けれど、彼の存在を知っている者はあまりいない。

 主に偵察や仲間の動向を監視するのが仕事。それ故、人前に姿を現すことはほとんどなく、陰に隠れるように行動している。

 そんな人を知っているとなれば、怪しまれる。そうなれば仲間への勧誘の話もなくなるかも。どうにか切り抜ける言い訳を考えなければ。

 ゼノの近くに居られるチャンスを逃すわけにはいかない。彼を幸せにするには、そばで見守るのがいちばんいいだろうから。

「まあいい」

「いいの?」

「お前の偵察能力もなかなか使えそうだ」

 違うんだけどなと思いつつも、ここは黙っておこう。そして、後でゼノに訂正してもらう。それがいいだろう。

「これからよろしく頼むぜ」

「こちらこそ」

 その後、ルーヴェルとロナはお茶会を再開した。彼らが持参したサンドイッチと家にあったお菓子を頬張りながら。その間、ゼノはいつも以上に眉間にしわを寄せていた。


 静かな場所が好きなゼノにとって、賑やかな空間は苦痛なのかもしれない。そう思い、しばらく黙っていたが彼の表情は晴れない。もしや疲れてお腹が空いたのだろうか。さっきは食べ物に手を付けていなかった。

 そんなこともあろうかと、実はゼノ用に作っておいたアップルパイがある。これで少しは機嫌が直るはず。特別に氷室に置いてあるアイスを乗せてあげよう。

 パイを切り分け、氷室に向かおうとしたらすぐさまゼノが振り返る。

「どこに行く」

「裏の氷室に行こうと思って」

「そうか。俺も行く」

「アイス持ってくるだけだよ」

 そう言ってるのに、ゼノは私の後を着いてきた。


 冷静さを保とうとするが、これは駄目かもしれない。すごく可愛い。黙って後を着いてくる姿を見たい。こっそり盗み見ようと視線を向けた時、奥の木のそばに人影が見えた。

 もしや、トーガが来ているのだろうか。彼の姿はまだ知らない。シルエットでしか登場していないうえに、その名前が出たのは一、二回ほどだったから。主人公のファンがほとんどの読者のなかで、その名前を覚えている人は少ないだろう。こんなにミステリアスな登場人物、忘れる訳がない。いつお披露目されるのか楽しみだった。

 目をこらしてその人影を凝視すると、見覚えのある顔。それはアインだった。

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