宣誓
どうしたって、ゼノが笑う未来が見えない。その姿は悲しげで、いつも人を避けるように背を向けている。そして、その目は憎しみしか映していない。
なぜ、変えられない。本来あるはずの未来から大きく逸れたのに。どうして、世界はゼノの死を望む。
それが正しい物語。
そうだったとしても。待ち受ける運命が同じでも、行く道が違えば何か変わるのではないだろうか。そう思いたい。でなければ、私の願は叶わない。
「傷が消せないなら、この先傷付かないように見守っていてほしい」
痛みに心曇らすものはもう要らない。充分過ぎるほどの苦しみを背負っている。これ以上どんな残酷な事が必要なのか。
「願いではないのか?」
「うん。私が守るから」
「じゃあ、なぜ私に言った?」
「宣言みたいなものかな。負けそうになった時に逃げないように」
「そうか」
また、女神は奇妙なものを見るような顔で私を見た。
それもそうか。ここは願いの叶う泉。願もせず、宣言をしに来る人なんかいないだろう。それしにても、もっとその表情を隠してもらえないだろうか。ただでさえアウェーな存在なのだから。
「なあ」
「なに?」
「君にとって、あの男はどんな存在なんだ」
「生きる理由です」
考える間もなく答えた。そんなこと、あまり前過ぎて考えた事無かった。
ゼノを見つけた日、私の心が動き出した。嬉しいことも楽しいことも、鈍くなった心。その分、何も感じないから楽だった。周りにあるあらゆる感情が麻痺したように機能しない。
どれもこれもつまならなくて、味気ない。目に見える世界はぼやけていて、鈍くなったはずの感情は人のとげには敏感で。気にしては悲しくなる日々。
そんな時に、どんな景色や感情をも焼き尽くしてしまう炎を見た。透き通った青は、鮮烈の赤は、私の目を一瞬で奪った。
ゼノがいるから私は生きていける。直接なにか声をかけられた訳ではないし、私のことを認識してはいない。けれど、その生き方に勇気をもらった。
「だから、ゼノくんへお返しがしたい」
「君の特別なんだな」
そう言った女神の表情は、少しだけ柔らかく見えた。だか、それは気のせいだったかもしれない。瞬きをする間に、その顔は鬼の形相へと変わっていた。
胸ぐらを捕まれたと思ったら、勢いよく上へ放り出された。
彼女と話していると忘れがちだか、あの場所は水の中。不思議と息苦しくは感じない。けれど、あまりいいことではないのだろう。でなければあんな乱暴に放り出したりなんかしないはず。
それにしても綺麗な空だ。寝ころんで見上げた景色。水色の空はゼノの色に変わった。いつか、あの空と同じ澄んだ色になるだろうか。そうなれば嬉しいのだか、どれ程先になるだろう。
そんな日、来ないかもしれない。だか、それでもいい。それがゼノならば、どんな色でも、好きなのだろう。




