1章 未来(ゆめ)を追いかけて 【未来(ゆめ)】
僕は、アイドルになると決めて学校も再開することにした。
アイドルなのに、学校に行かないのは変だと思った。それはただの偏見かもしれないけれど。
アイドルになるなら、人とたくさん関わらなくちゃいけない。
僕を批判する人も居て、僕をよく思ってくれる子も居て、たくさん人と関わるから。
だから、行かなくちゃ。
戸籍が変わったから、制服もズボンにしてもらった。
クラスメイトの反応が気になるけど、それでも、ミクと久しぶりに話したかったし、学校に行ってたくさん人と関わりたかった。
「行ってきまーす。」
手術後の身体、声、慣れる前にヒナが逝ってしまったから、ヒナのことばかり考えてまだ慣れていない。
<ピンポーン>
ミクの家の玄関チャイムを鳴らす。
この時間ならまだ家を出ていないはずだ。
「はぁい。どちら様でしょう?」
とミクの高い声が聞こえる。
ヒナの柔らかい声とは違い、声が平均より高く、甘い声。
「チソラです。」
と僕が、ちょっと変わった低い声で言うと
「チソラ、、、?ちょっとまってて、今行くね。」
とミクの焦った声が聞こえた。
いつか、ミクが風邪をひいて、プリントを届けに行ったときみたいに。
扉が開いて、見慣れた制服姿のミクが出てくる。
「あ、ほんとにチソラだ。声違くてびっくりしたよ〜。もしかして学校行ってない間に手術とかしたの?」
ミクの、ヒナみたいな優しい口調に泣きそうになる。
「手術、したんだ。久しぶり、ミク。学校は、どう?」
僕が聞くとミクはニコッと笑顔になって
「あの後チソラがプチいじめになってたことが先生にバレて、チソラが登校拒否になったのも含めて対策しなくちゃいけないってなってね。クラス替えがあったんだよ。いじめてた主犯のゆかりとかが離れて、私もあの後は無事終わったの。チソラは私と同じクラスだよ。私、心配してたんだから。チソラは一人で大丈夫なくらい強いけど、でも、誰かの支えが必要でしょ。」
と言った。
クラス替え、、、。
そっか。
僕のせいで、みんなクラス替えしてくれたんだ。
でも、ゆかりたちが離れただけで他はあんまり離れない、ちょっと入れ替わっただけのクラス替えだったみたいだ。
「嬉しい。良かった。僕も、あのクラスだったらもっといじめられていたかもしれない。」
と僕が言うとミクは笑いながら僕の手を引いて学校へ向かった。
「チソラくん。私、チソラくんのこと好きです!えっと、実は前から好きだったんですけど、チソラくん学校こなくなっちゃって!えっと、、えぇと、、、。」
昼休み、中庭に呼び出されたと思ったら、ミクと仲が良い、女の子からの告白だった。
「付き合って、くれませんか、、、?と、友達からでも良いんです!」
その子は必死だ。
「友達からなら、、、。でも、僕のどこに惹かれたの?クラスメイトだからわかると思うけど、僕は元女だし、、、。そこだけ教えてほしい。」
と僕が言うとその子はぱぁっと笑顔になって
「元女ってことは関係ありません!いつも静かなのに、話しかけたら優しくて、一人で生きていけそうな、強そうな感じで、そこに惹かれたんです!最初は友達に言ってなかったんですけど、、、友達、、ミクに相談したら告白したら良いじゃんって、言われて、、。」
一つ一つ、言葉を丁寧に並べる。
名前も知らないその子の必死さが可愛くて、愛おしいと思ってしまう。
「最初は友達ね。」
と僕が言うとその子はもっともっと笑顔になって、嬉しそうな顔をして
「はいっ!私、玲奈です!よろしくお願いします!明日は一緒にご飯食べませんか?今日はミクと食べるので!」
と言った。
僕の、友達が一人増えた。
これから、友達のままでもいいし、今度こそ玲奈ちゃんをちゃんと好きになって付き合ってみても良いかもしれない。
でも、この先のことは未来の先の僕に任せよう。
いよいよ、面接の日。
不安も、ドキドキも、胸に押し込めてヒナの想いを繋いでいく。
これから出会う、たくさんの人も、先の未来も、全部がここにかかっている。
ヒナの想いの未来も、僕の想いの未来も。
これからも僕が紡いでいく。
「24番、夕凪千空さん。」
「はい。」
僕は返事をしながら未来への扉を開けた。
<夕凪千空 面接通過。第三審査終了。おめでとうございます。
今日から貴方はアイドルグループ、“ユメミライ”のメンバーです。>