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未来(ゆめ)〜ユメミライ〜  作者: 莉ゆ。꒰ა♡໒꒱
未来(ゆめ)を追いかけて
7/14

1章 未来(ゆめ)を追いかけて 【真っ黒】

手術後、退院しても足は痛くて、うまく歩けなかった。

一週間タイに居て帰ってきた。


「ヒナ、生きてて、、、。」

 僕はそう言いながら病院のヒナの病室に走っていた。

日本に帰ったのは昨日の夜。


「ヒナっ!」

 そう言いながら扉を開けると点滴をして、寝ているヒナが居た。

「ヒナ、、、ヒナ、、、。はぁっ、良かった、、、。」

 僕が言うと誰か入ってきた。

「あなたは?」

 とその人が聞いてきた。

ヒナのお母さんだろうか。40代くらいに見える。

「僕、チソラって言います。」

「あぁ、チソラくん。私はヒナの母です。ヒナから話は聞いていたの。そう、あなたがチソラくんね。優しそうな子ねぇ。」

 とお母さんが優しい声で言った。

僕は声変わり途中で前よりは低い声になっていた。

「ヒナは、、日那乃ひなのは、、、手術してまだ起きてないの、、、。手術する前に死ぬ可能性があるって言われていたけど、、、。」

 ヒナのお母さんは泣きそうになりながらそういった。

ヒナは、だんだん衰弱していってるそうだ。

ヒナの顔に向日葵ひまわりみたいな笑顔はなくて、真顔。というより、不安そうな顔だった。

「ヒナ、ヒナ。生きて、頑張って。生きて。」

 僕が呪文のように言うと

ヒナのお母さんは笑った。ヒナによく似た柔らかい笑顔で。


「チソラ、くん。」

 ヒナが、つぶやいた。

「ヒナ?」

 と僕が返すと寝ていたヒナが目を開けた。

「チソラくん。手術終わった、、?」

 ヒナが弱々しい声でそういう。

「終わったよ。ヒナは生きてる。僕のも終わった。」

 僕が言うとヒナは柔らかく笑って

「チソラくん、声低くなったね。」

 と言った。

「ヒナ、大丈夫?」

 と僕が聞くとヒナは首を振って

「もう死にそう。疲れた。生きてるの、辛いだけ。」

 とつぶやいた。

静かな病室に、小さいヒナの声が響く。

「遺書、書いたの。」

「遺書?」

「チソラくんに、あげる。そこの、戸棚に入ってるから、、、。」

 ヒナが指さした戸棚を開けると小さなノートとクリアファイルが入っていた。

「私が死んだら、読んで、、、。私、チソラくんのこと、、、、大好き、、、。」

 ヒナはそう言うとニコッと笑って、その顔のまま眠っていった。


日那乃ひなのは、起きたの?」

 数分後、売店で食事をしていたヒナのお母さんが来た。

「あ、、、。えぇと。さっき、起きて、一緒に話してたんですけど、、。」

 と僕が言うとヒナのお母さんはびっくりした顔をして、ちょっと安心したような顔をした。

「また、寝ちゃったのね。でも笑顔で寝てるわ。良かった。きっとおしゃべりが楽しかったんでしょうね。」

 とヒナのお母さんが笑いながら言った。



どうしたら良かったんだろう。

ヒナになんて言えばよかったんだろう。

大好きって言ってあげればよかった。

世界で一番大好きだよって。

どれだけ後悔してももう戻ってこない。

ヒナは死んだ。

最後に言った言葉は僕に向けた“大好き”だった。

最後に話した次の日のお昼。

呼び出されて病院に行ったら

日那乃ひなのさんは亡くなりました。」

 ってお医者様が告げていて。

前、ヒナのところに連れてきてくれた看護師さんが立っていて、泣いていた。

あんなに明るい笑顔で接してくれたヒナの顔に笑顔はなく、病室にはヒナが居たときみたいな暖かさがなかった。

僕の心がぐちゃぐちゃになって泣くこともできなかった。

死ぬことは知ってたはずだったのに、何も言えなかった。

ヒナが苦しいこと知ってたのに何もできない無力感を、今感じていた。あの日、ゆんさんが言っていた悔しいの感情が今わかった。

なんで、あのときわからなかったの。

なんで、あのとき、、、。

ただ、悔しくて、ヒナと話したくて、悲しくて、、、。

でもあのときの僕は何もできなかった。


はっと気づけば、眠っていたみたいで。

戸棚を見て、思い出した。

小さなノートとクリアファイルのことを。


『大好きなチソラくんへ』

 遺書はそんなふうに始まっていた。

『今、手術中かな、と思いながら遺書を書いています。

私は手術終わったよ。一瞬だった。

予定より1日早まった手術。なんの問題もなく終わった。手術は失敗しなかった。

でもね。私は死にそう。

最近はすごく眠かったんだけど、手術後、身体がついていけなくなっちゃってどんどん衰弱しちゃっているんだって。

だからチソラくんに向けてだけ、遺書を書こうと決めました。

これを読んでるってことは、私はもう死んじゃったんだね。

今、チソラくんはどんなことを考えてるのかな。


チソラくんはかっこよかった。

一目惚れって言うのかな。

最初見たとき、かっこいい子だって、震えた。

大袈裟だけど、本当に好きになっちゃったんだよ。チソラくんのこと

LGBTって聞いたとき、驚いたけど、それ以上にもう男の子だよって思ったんだよ。

手術なんかしなくても、かっこよかった。

男とか女とかじゃない魅力を持ってた。

それだけ素敵だったんだ。


そんなチソラくんに、可愛いって言ってもらえたときは恥ずかしかったし、嬉しかった。

私は、みんなを笑顔にしたくて、周りを明るくしたくてアイドルになりたいって言ったよね。

チソラくんは「ヒナの笑顔なら世界を魅了みりょうできたのにな」って言ってくれた。

でも、私、思うんだ。

チソラくんだって世界を魅了みりょうできる魅力みりょくがある。

すごく素敵な子なんだって。

性別で悩んでたこと、明かさなくても良い。

無理に明るくしなくたって良い。

ただ、チソラくんなりにリスナーさんを優しくしてあげてほしい。笑顔にしてほしい。

私は、チソラくんにならその力があると思う。


クリアファイルの中に、アイドルの書類が入ってるの。

私が受けようと思っていた面接の書類以外に、男性アイドルグループのこととか、色々なプリントが入ってるの。

私が受けようと思っていた面接、受けてみてほしい。

無理なら無理って連絡してくれて良い。


私の遺書てがみを見て、少しでも元気になってくれたら嬉しい。

私との別れは悲しいと思う。

私だって悲しいもん。

でもね。

人は必ず死ぬんだよ。

もしかしたら、、、チソラくんも明日死んじゃうかもしれないの。

私だってもっと前に死んでたかもしれない。

だからこそ、今ある命を大切にして明るく生きててほしい。

別れは悲しいけど、別れがあるから出会いがある。

いつか、私以上に好きな子を見つけて、幸せにしてあげてね

(チソラくんがアイドルになって、たとえファンやリスナーさんでも、幸せにしてあげて。私にしてくれたみたいに、優しく包みこんであげてね)


柏木かしわぎ 日那乃ひなの

20XX年 10月』


読んだ瞬間涙が出た。

それと同時に、やっぱりヒナの未来ゆめを僕が叶えなくちゃいけないと思った。

ヒナの想いを僕が受け継いで、僕を好きになってくれる子に、届けなきゃいけない。


でも、僕のファンができるだろうか?


ファイルに入ってた紙を見ると、そこには

<バーチャルアイドルグループに入りませんか。>

という言葉とともに説明が書かれており、面接許可のところにハンコが押してあった。

「面接、きょか、、?」

 もしかしたら、ヒナが先に書類審査をしていたのかもしれない。


2枚目のプリントには書類審査のヒナが出したと思われる書類が入っていた。

<書類審査

性別:男

なりたいと思った理由:人を笑顔にしたいから。明るく、元気にしたい。誰かに勇気をあげられる人になりたいから。

名前:夕凪ゆうなぎ 千空ちそら

 

「僕の、名前、、、。ヒナは知ってたんだ。」

 僕がやることを前提で進めている、、、。ヒナは、僕を信じてくれたのかな。

書類は全部、僕のことが書いてあった。

でも、LGBTのことはなにも書いてなかった。


3枚目のプリントはバーチャルアイドルについてだった。

最近流行りの“歌い手”。それに加えて顔出しNGの“バーチャル”というアイドル。

声だけで活動する人たちだ。

喋りがうまくなきゃいけないし、歌もうまくなきゃいけない。

でも、それだけで色々な人に勇気を与えられる。

僕は喋りも歌も上手くないかもしれない。

でも、想いは伝えたい。

ヒナができなかったことを、僕が全部やりたい。

ヒナの想いを、僕が。

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