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未来(ゆめ)〜ユメミライ〜  作者: 莉ゆ。꒰ა♡໒꒱
未来(ゆめ)を追いかけて
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1章 未来(ゆめ)を追いかけて 【想い】

「チソラ。最近、あなたどこへ行ってるの?」

 久しぶりにお母さんと夕飯を食べているときのこと。

唐突に、そう聞かれた。

「あ、あぁ、、、。友達のところ。」

 僕が言うとお母さんは不審そうな顔をして

「友達?もしかして、ミクちゃん?でも、あの子は不登校じゃないから、、、。午前中は誰といるのよ。」

 と聞いてきた。

「ヒナ。」

「誰よ、それ。」

「近所に住んでる学校に行ってない子。」

「悪い友達とは遊ばないほうが良いわよ。じゃあ、ごちそうさま。」

 お母さんはそれだけ告げると部屋に戻っていった。

なんだろう、悪い友達って。学校に行ってない子って悪いの?

まぁ、ヒナの場合は病気だからだし、別に行きたくなくて行ってないわけじゃないからお母さんの言う悪い子ではないと思う。


お母さん、、、秘密でこっそり手術のことを進めてること、知ってるのかな。

色々調べたり、ヒナに相談したり。

全部、わかってこの話題を持ち出したんだろうか。


ご飯を食べ終わると、僕は部屋でいつも通りパソコンを開いた。

性別適合手術せいべつてきごうしゅじゅつ

と打って検索する。

「女から男に」「性別を変換するには?」

などの検索結果が並ぶ中、僕は一つのサイトをクリックした。


やっぱり、手術は受けたいと思う。

だって僕は男であるべきだと思うから。

男じゃないとおかしい気がするから。

僕は、女の子じゃないから。

今度、お医者さんに聞きに行こう、一人で。



「チソラさん、中へどうぞ。」

 僕は立ち上がり、診察室に入る。

「今日はどうされましたか?」

 医者せんせいがそう聞いた。

性別適合手術せいべつてきごうしゅじゅつの相談をしたくて、、、。あっ、でも、お母さんは反対してるんですけど、、、。」

「なるほど。チソラさんは手術したいんですね。では、紙を見せながら説明していきます。」

 医者はそう言うと僕に一枚のプリントをくれた。

「お金は200万くらいかかってしまうんですが、手術を受ければ戸籍の性別を変えることができます。そして、よりなりたい性別になれます。ホルモン注射を打つと声も変わります。___最初に言っておきますが、手術は完璧ではありません。完全にその性別になれるわけじゃないんです。そのため、自殺してしまう事例もあって、、。“戸籍”の性別は変えれますし、体つきもより“近く”なりますがあまり期待しないでください。」

 手術は、完璧じゃないんだ。本当の男の子になれるわけじゃないんだ。

“絶望”という言葉が頭をよぎる。

本当に男の子になれるわけじゃなくて、それでも女の子は嫌だった。

だめなんだろうなって思う。やっぱり本当の男の子には勝てなくて本当の男の子にはなれなくて。いくら頑張っても、悩んで、苦しいままなんだろうなって思った。

「あ、ありがと、う、ございました、、、。」

 気づけば、頬に生ぬるい水が流れていた。

「ゆっくりで、大丈夫ですよ。お母さんとも相談しながらじゃないといけませんし。お母さんは反対しているみたいですけど、結局はチソラさんの気持ちが大事ですから。一緒に考えていきましょう。」

 医者せんせいは優しく笑ってそう言ってくれた。

僕はコクっと頷くと静かに扉を閉めた。


ぎゅっと手を握る。もらったプリントがぐしゃっと音を立てる。

費用も高いからこんな僕じゃ払えない。

結局は、、お母さんに頼るしか無いのかな。

でも、手術は絶対受ける。

早く受けたい。

早く、こんな身体じゃなくしたい。

せめて、男の子に近づきたい。

自分の体を見るだけで嫌になる、そんな身体じゃなくしたい。



「ヒナ。僕、手術を受けようと思う。」

 僕がヒナに言ったらヒナは喜ぶようにニコっと笑った。

「良かったあ。チソラくん、お母さんとかお医者様いしゃさまに負けちゃうかと思った。自分の気持ちを見つけられたんだね。」

 優しい口調で言う。

優しくて、明るいヒナの口調はいつも安心できる。

「あのね。」

「ん。」

「私も、手術するの。病気を治すためのだから自分で選べなくてね。手術しないと死ぬし、手術しても手術が失敗したら死ぬ。手術が成功しても体に合わなかったら死ぬ。私、死ぬ確率が高いんだよ。まだわかんないけど、きっと手術日は私の命日だろうね。」

 ヒナから発せられたのはポジティブなものではなかった。

暗くて、苦しい。沼の中みたいだった。

うまく呼吸ができない感じ。

辛い、辛い、苦しい。

ヒナはいつも明るく笑ってくれた。優しく包みこんでくれた。

でも。

もしかしたらずっとそんな感情を持っていたのかもしれない。

いつか、言ってくれた

『チソラくんは雰囲気が柔らかくて、優しくて。私の話、なんでも聞いてくれる。チソラくんの話、たくさん話してくれる。でも、私が寝ているときとかは静かにしていてくれる。私、そんなチソラくんが好きだなぁ』

 っていう言葉が頭の中をよぎる。

僕はヒナの力になれてるのかな。

ヒナが好きなんだ。

その後はなんの言葉もかわさず、僕は帰った。


家に帰ると、暖かい光と、静かにご飯を食べるお母さんが居た。

僕はお母さんの前に座る。

お母さんは嫌そうな顔をした。

「お母さん。手術、受けたい。」

 僕が言うと、お母さんは血相を変えた。

さっきまで僕に向けて嫌そうな顔をしていたのに。

「だめだって、言ってるでしょう。」

 お母さんの低い声が聞こえた。

「っ、、、僕、手術したい。僕はこのまま生きていたら絶対後悔するから、、、。」

 僕が言うとお母さんは更に表情を苦くして

「勘違い、勘違いよ、、、」

 とつぶやくように言った。

「僕は、このまま生きていたら絶対後悔する。どうせ生まれてきたのなら、まっすぐ前を向いて生きていきたい。僕はお母さんの言う通り生きていくわけじゃない。僕は、これからも自分で選んで生きていく。それに後悔することもあると思う。でも、それにお母さんも協力してほしい。どうしても、僕一人じゃできないことがあるから。それと_________普通の娘で居られなくて、ごめんなさい。」

 最後は言葉にできないような空気みたいな声だったけれど、お母さんには届いたようだった。

お母さんの目は潤んでいて、今にも泣きそうだった。

「娘で居てほしい。普通に生きてほしい。手術しないでほしい。お母さんの心を、待ってほしい。勘違いだったらどうするの。」

 お母さんはかすれた声でそう言った。

「お母さんは、あと何年もこのまま、死にたいって気持ちのまま、身体を見ただけで死にたくなって、悩んで、苦しいまま、いてって、、、いうの?」

 僕が言うとお母さんは泣きながら許してくれた。

「ごめんね。チソラ。」

 それだけこぼして。

あんなに否定してたけど、話したらわかってくれたみたいだった。


僕はほっとしたのか、安心したのか、その翌日、熱を出した。


「大丈夫?ちぃ。」

 高熱はじゃないけど、熱を出すとやっぱりだるい。

「お姉ちゃん、だるい。」

 というとお姉ちゃんは冷えピタを持ってきて僕のおでこにはった。

「ちぃ、無理しないでね。性別の事、お母さんから聞いちゃった。教えてくれたら良かったのに。私じゃだめだったの?私は、お母さんに特別扱いなんて、されてないよ。むしろ、いい成績をとってないと怒られそうで、怖い。お父さんは全然居ないし、忙しそうだから話せないし、、。私に相談してくれてよかったのに。」

 お姉ちゃんはそういってふわっと笑った。

「ちぃ、あのね。“諸君、狂いたまえ!”って言葉知ってる?常識にとらわれず、自らの志に従って生きているものは愛すべきだ。っていう意味なんだよ。だから、ちぃは性別が違くても良いんだよ。普通じゃなくて全然良いの。」

 お姉ちゃんはそういうと僕の部屋を出ていった。

“普通じゃなくて良い”か。

お母さんも、お姉ちゃんも、僕が話したらわかってくれた。

僕の想いは伝わったってことなのかな。

「諸君、狂いたまえ、、、。」

 僕の呟く声が部屋に響く。

お姉ちゃんの「いってきまーす!」という慌ただしい声。お母さんがバタバタ出ていく音。そして、シーンと静かになった。


狂う、、、ね。



「ヒナ。」

「ん?どーしたの?チソラくん。そんな改まって。」

 いつものようにヒナの病室に行くと、ベッドの上に寝るヒナと、ピッピッピと鳴っている機械の音、点滴が見えた。

日に日に病室に物が増えていく。

「う、うぅ、、、。」

 ヒナが苦しそうなときがある。

明るいヒナが、どこかへ行ってしまったような感じだった。


僕は、ヒナに好意を抱いていた。

明るくて可愛くて、向日葵ひまわりみたいに笑う、ヒナが好きだ。

「僕、ヒナが好き。ヒナが、僕のこと忘れないうちに、ヒナが____居なくならないうちに、、、伝えて、おきたくて。ヒナのこと、好き。」

 僕がそう言うとヒナはびっくりしたような顔をして、その後恥ずかしそうに笑って

「私も、チソラくんのこと、好きだよ。かっこいい“男の子”だから。」

 と言ってくれた。僕は自然と顔が赤くなるのを感じた。

心拍数が上がって、変な気持ちになる。

付き合う、とかそういうのじゃない。

恋愛だけど、僕はヒナが居なくなっちゃう気がして、好きって、それだけ。

怖いから。付き合っちゃったら、今の関係じゃなくなっちゃう。

今の関係がちょうどよくて、辛くない。その分ドキドキしないけど。


たぶん、あとちょっとで、離れちゃうから、、、。

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